鈴でも鳴らしてみれば
視界の端っこが男鹿を捉える。遠くから見てもわかる、猫っ毛なあいつの髪の毛は今日もゆらゆら、ふわふわと揺れている。なあ、あいつ猫みたいだよな、とかおるに問いかけると、うん やら はあ やら曖昧な返事だけでよく聞こえなかった。
「だってほら、見ろよ」
「…ああ」
「にゃー」
思いっきり はあ?みたいな顔をされて思わず笑う。ぎらりと光る目にいつもの鋭さはなかった。が。さてこれは、ずいぶん強そうな猫だ。しかも黒猫。
「きもいんだけど」
「ははっ よぉ」
「はあ、何しに来たんだよ」
いつも通り、ぶっきらぼうな言い方は機嫌が悪いのではなくて、照れていると取ってもいいのだろうか。オレの自由か。背中にいる緑の赤子は喜んでいる。素直だ。
「男鹿は犬?猫?」
「あ?なにが」
「好きなの」
「あぁ、…猫」
いつからか、前触れなくブッ飛んだ話をしても何も言われなくなった。初めてそう思ったのは、今よりもっと寒い頃だったと思う。
だって自由に散歩いって喧嘩しても勝手に帰ってくるし、気まぐれだしベタベタしねぇから楽そうだろ。
なるほど確かに。ひどく納得してしまう。だってやっぱり考えれば考えるほど、
「お前みたいじゃねぇ?」
「はあ?何でだよ」
「いや、そんな感じがした」
だって好き勝手ふらふらするし喧嘩はするし、気まぐれだしわがままだしベタベタしねぇし、なあ、そうだろ。ぴったりだ。
そう言うと、馬鹿じゃねぇの と猫っ毛を揺らしながら男鹿は笑った。喧嘩でもしてみるか、と呟く黒猫の目はひどく挑戦的だ。なあ、ちなみにオレも猫の方が好きだよ。