本日、卒業しました



東条と男鹿

じゃあな、と笑った背中が遠くなっていく。ああもう本当に最後だ。脳内が終わりを告げる。警報が鳴る。やめてくれ、そんなこと知りたくないのに。

「…東条!」

見たくないはずの顔が、鬱陶しいはずの顔がゆっくりとこっちを向く。目が合う。なんだよ、そんな驚いた顔すんなよ、悪かったな。呼び止めるつもりはなかった、はすだ。オレだって。

「…男鹿、」
「んだ、よ」
「なあ、泣くなよ」

いつの間にか東条の顔が近い。そこで初めて泣いていることに気づいた。涙なんか何年振りだろうか。つーか何で、泣いてんだよ格好悪い。

「…好きだった、」
「うん」
「ごめん」
「謝るなよ」

だってこれ以上どうすればいいんだ。離れて寂しいならふられてスッキリしたほうがましだ。なあ東条、だからすっぱり綺麗にふってくれ。オレが後悔する前に、早く。
東条は笑う。綺麗すぎて悲しいなあと思う。取り巻く雰囲気とは不釣り合いすぎてまた泣きそうだ。

「オレも好きだった」
「へ、」
「今も、好きだ」
(不釣り合いな雨はいらない)




古市と男鹿(※3年設定)

さっきからちらちらと見てしまうオレが厭だ。予想通りすぎて少し笑えた。

「なんだよ、黙ってんな」

これでも一応最後なんだから、と言う男鹿と、3年間通った道を歩いて帰宅する。そうだ、これで本当に、最後か。
学ランのボタンだけじゃない、袖口のボタンだって1つもない男鹿の淋しい制服は、意外と綺麗だ。

「第二ボタン、」
「あ?」
「誰にあげたんだよ」
「えー、…わかんね、気づいたら無くなってた」
「あ、そう」

口にした後に、思いがけず冷たい言い方に後悔する。これじゃあまるで、オレが拗ねてるみたいじゃないか。案の定、男鹿はニヤリとこっちを見ている。うわあまずった。

「なに、欲しかったの?」
「はっ 誰が男の第二ボタンなんか、」
「別にいいじゃん、ボタンなんか」
「はあ?いやだから、!」

男鹿の顔が近すぎて心臓がぎゅっと縮んだ。気がした。

「妬くなよ」

それが、キス、だと気づいたのは3秒後だった。
(ウエディングベルと桜道)