プラマイゼロの方式


「つめてえ!」

不意に当たった手を勢いよく引っ込められて思わず笑う。おもしろい。
冷たくねーだろ?と、わざと手を握る。あったかい。やめろふざけんなと振り払われるのはいつものパターンだ。

「古市お前、ほんといつでも冷たいな…」
「お前は暖かいよ」
「だからってわざと触んなよ」
「えーオレ暖まるしさあ」
「オレが損してんだろーが!」

別に減るもんじゃねーしいいだろ、とは言わないでおく。たしかにオレしか得はしない。
途切れる前にふと頭の中に浮かんだ言葉を、そのままぽつんと呟いてみた。

「そういえば」
「あ?」
「手が冷たい人は心があったかいって言うだろ」
「あー」
「オレは心があったかいから手が冷たいの」
「いや黙れよ」
「んで、男鹿は心が冷たいから手があったかい」
「古市うっぜえ」

いやいや、心なしかあっている気がするのはオレだけか。だって男鹿はろくな奴じゃないし。うん。オレじゃなかったら付き合いきれねーんじゃないの。いや自惚れじゃなくて。

「ほらやっぱりいい奴だ」
「オレが?」
「オレが」
「…まーたしかに」
「え、」

3秒フリーズ。ゆっくりと男鹿の顔が歪んでいく。うわあもう最悪、これだから結局いつも騙されてからかわれるんだ。毎回後悔する。解ってるはずなのに。

「なに固まってんの」
「…ニヤニヤすんな馬鹿!」
「ふ おもしれぇ」
「最悪…!だから心冷たいんだよ!」

勢いに任せて言葉を飛ばしても、いいじゃねーの、と男鹿は笑う。ぎゅうと手を握られて一瞬、呼吸するのを忘れた。我ながら驚いた顔をしている。と思う。

「あったけーだろ?」

うまいこと釣り合いとれてるし、とそのまま歩き出す男鹿の手は素直にあったかい。「やっぱ冷てえなあ」と言いながらも、今度こそ手を離してくれない。

「プラマイゼロってやつかなあ」
「あーまあそんな感じ?」
「はーっあったけー」
「…そりゃよかったな」