遠回しな君のこと
東条さんのはなし
「あーんして」
「は?あーん」
「ちがっ、オレに」
「やらねえよ」
腹に蹴りをくらってとりあえず痛い。さすが男鹿、いい蹴りだと強がって笑えば きもちわりいなドMかよと返ってきた。オレたちは上手く噛み合うように出来てないのかもしれない。いまさらだけど。
「なあ頼むよ」
「だからやってんだろ ほら」
「いやだからオレがあーんするんじゃなくてオレにあーんしてくれよ」
「…なんか気持ち悪いから却下」
相変わらず理不尽な言い訳だ。恋人にあーんしてもらうのは男のロマンだ、と庄司が言っていたときから、ひたすら言ってみるがしてくれたことがない。なんでそんなにしてほしいんだよ、と聞かれて同じように答えたら、お前ロマンって意味わかんの?と言われたがよくわからない。ロマンを知るために あーんしてもらうんだろ!
「お前さあ」
「なんだ?あ、ご飯つぶ付いてんぞ」
「どーも。…待つとかねーの?」
「あ?待つ?」
「…毎日言われたら逆にやりづらいだろ」
分かれよ馬鹿、と今度は頭を叩かれる。いつだって全力だ。オレにだけ。ああなるほど。なんだ、噛み合ってるじゃねえか。
「よし、わかった。明日からあーんしてって言わない!」
「今日からにしてくんない」
古市くんのはなし
「あーん」
「ほらよ」
「ゲッホゴホッ!おっまえ!勢いよすぎんだろっ」
「あーんしてやったんだけど」
「まさかするとは思わなかった」
効果音をつけるなら見事に「ズボッ」だった。涙目。とことん素直じゃない、むしろアマノジャクってやつで、さらにひねくれてるこいつがまさかあーんするなんてだれも思わないだろ。いや、アマノジャクだから逆にやったのか?どっちにしろひねくれてる。
「お前さあ」
「は?」
「もうちょっとこう、素直にできねーの」
「おかしいなオレはいつだって素直だけど」
真面目な顔で言われたらこっちが困るんですけど。一緒にいるのに、内側までわかんなかったりするのはどうすれば解決するんだろう。とか、こいつ相手に悩んだこともあった気がする。気だけ。
「もういらね」
「ほら貸せ、お前いっつも残しやがって」
「いっつもとか何様だよ」
「長年一緒にいんのに見過ごすわけにはいかねー」
「あーそう、まあ男鹿は残飯係だもんな」
「残飯言うな」
今ではそんなの馬鹿馬鹿しい悩みになった。形にしなくてもいいから楽だ。アマノジャクでひねくれものだって素直なところはあるし。
「さんきゅ」
「おう」