掴まえていてほしい

※隣のクラス設定



体育が終わった後、いつものように3人で校舎への道を歩く。古市くんがぼそり、寒いなあと口にした。それなりに暖まった体が冷やされていくのがわかる。
今日のサッカーも男鹿くんは相変わらず大活躍だった。先生は、帰宅部なんてもったいないとため息をついていたし、同じチームだったサッカー部も顔負け、体育を抜けてこっちを見ている女子だっていた。本人は全く気づいてないけど。体育だけはちゃんとするのがいかにも男鹿くんらしい。


「あ 待って」
「んあ?なに」
「オレ自販機行くけどー」

どうする?古市くんがこっちを向いて笑った。ちゃっかり握られた100円がぎらりと光る。まじかよ、とでも言いたそうに、男鹿くんの顔が歪んだのを見のがさなかった。

「古市くんずっるー」
「君とは違うんだ男鹿くん、賢いと言え」
「チッ ちゃっかりしてんな」
「まあな」

まあいいや オレ先戻っとくわ、と男鹿くんは、古市くんとは反対側に歩き出した。三木はどうすんの?と古市くんに聞かれて返事に困る。

「えっと…」
「あ、お前はこっち」

振り向いた男鹿くんが、ほら行くぞ、と僕を呼んだ。普段は好きにしろ しか言わないのに。珍しいなと思ったけど、とりあえず男鹿くんの方へ足を向けた。ちらっと見えた古市くんも驚いた顔をしていたからたぶん、僕と同じことを思ったんだと思う。



「あれ、男鹿くん」
「あ?」
「どこ行くの?教室はこっちだろ、」
「保健室だよ」

無理したら悪化すんだろーが、と呟いたけど、それでも歩く速度を落とさないのが男鹿くんらしい。痛みを知らせるように、ずきんと右足が呻く。ばれないと思ったのに。

「…いつから気づいてた?」
「見りゃわかんだろ」
「誰も気づかなかった、けど」
「オレが気づいたからいーじゃん」

チビのくせに我慢なんかすんなっつの、と理不尽な言葉と一緒に男鹿くんのげんこつが降ってきたけど、もうそれすら嬉しいと思ってしまう。
これだから好きだなぁと思う。反映された心臓がうるさすぎて息苦しい。小さくてよかったなんて、コンプレックスさえも愛しくなってしまうのだからどうしようもない。

「ありがとう」
「ん」
「…古市くん」
「古市かよ」

ごまかすようにしか笑えない僕の手を男鹿くんがぎゅっと握った。保健室、着いてほしくないなんて言ったら男鹿くんは怒るだろうか。