もっと深いところ


東条の背中は広くて、吐き出す息も静かに跳ね返ってくる。少し古い型だかきちんと手入れしてあるこのバイクは、変なところできっちりしている東条が、バイト先の人に譲ってもらったものらしい。

「さっぶーいー」
「ははっ 声震えてるぞ」
「おまえもなあっ」

冬の夜の空気は冷たすぎて、顔も動かなくなる。むしろ痛い。あー涙出てきた。
だけどなあ、多分、東条のが寒いよな。オレはこいつが風よけになってくれていると言っても過言じゃない。なんかごめん。
今ならどう頑張ったってオレの顔なんか見えはしない。思いっきり腕を回して包むようにひっついてやった。当たり前だけど全然包めてない。心臓の音が、夜みたいに、静かで好きだ。

「なんだどうしたー」
「んー風よけ?」
「おいっ」
「あーさっむうぅっ」
「…コンビニ寄ってもいいか?」
「いいけど」


やるよ、と渡されたミルクティーはあったかくて、両手にじんわりと広がっていく。多分、オレの為にわざと寄ってくれたのだと思う。自惚れるわけではないけど、無神経よりはきっとましだ。
なあんか、気を遣わせていることしかしてねえよな、ほんと。
なんともいえない気持ちになって東条をちらり見ると、あと10分したら帰るか、と笑われた。
まだいいのになあ、別に。大切に扱われすぎて、内側から脆くなりそうだ、なんて。

「おう」

言いたいことは何十にも絡まって喉の奥に潜んでいるのに、レモネードで全部飲み込んで 肯定の2文字を声にした。