ゼロにもならない


毎回顔を合わせる度に、好きだと言うと死ねと返ってくる。もはや反射的なものであって、本心ではないことぐらい解っている。最初さえ眉間のシワが気になったが、今ではそれこそ表情ひとつさえ変えてくれない。つまらない。
不意にぎゅうと手を握って笑う。男鹿の手は冷たい。

「なあおい男鹿、口にした方が叶わないのってなんでか知ってるか?口にできるぐらいのことだからだよ、つまり大したことないってことだ。本当に死んでほしいなら心ン中で願っとかねぇと」

「はっ 残念だなぁ東条、オレはいつだってお前のこと死ねって願ってるけど?死なないお前がしぶといだけなんじゃねえの?」

そこで初めてニヤリと男鹿は笑う。なんだ、答えなんて簡単だ。面白いじゃねえか。握り返された手を包むように握り返した。男鹿の手はやっぱり冷たい。

「うん、やっぱり好きだ」
「死ね」
「愛してる」
「ふーん」

馬鹿だなあ、オレだっていつもお前のこと考えてるよ、死ぬくらいにはな。