オレの腕に巻かれた包帯を見て、男鹿はびっくりした、ような顔をした。そりゃそうか。オレがこういう状態になった原因を考えても、普通ならせいぜい「事故に遭った」ぐらいしか選択肢がない。だけど残念、今回は違います。

「上がれば」
「…おじゃましまーす」

見慣れた殺風景な部屋にとりあえず腰を下ろす。男鹿はほんと馬鹿だな、とでもいいたそうな顔をして黙っている。どうしたんだと聞かない限り、何となく勘づいているのだろうと思う。

「笑ってくんねーのかよぉ、それ目当てにわざわざ見せつけに来たのに」
「いやまず来なくていいし」
「…痛かったです」
「それはオレが得する話?お前の自己満?聞かないといけないの?」
「相変わらず冷てーなあ」

男鹿はたいてい突き放すような言い方をする。
女の問題はお前が悪いだろ、ほいほい手ェ出すなよ、と呆れた声で言われて言葉につまる。やっぱりわかったか。
こっちだってなあ、お前には理解できないロマンがあるんだよ、いや別にロマンとか考えたことないけど。だいたい始めからオレが悪いって決め付けるのはどうなんだ。ぽんぽんと頭に浮かぶ言葉を、舌で転がすようにして飲み込んだ。この立場で胸を張って言えるようなもんじゃない。生憎、馬鹿じゃねーからそれくらいわかる。

「つーかさー」
「あん?今度はなんですか」
「殴られたの、たぶんアイツ」
「アイツって何」
「お前が中学の時ケンカした、隣の隣の中学だった」
「ハゲ?」
「そうそれ」
「ほお」

別に得する話じゃないんだけど、とベッドに寝転がりながらつまらなさそうに呟く。すいませんね。だけどオレだって、うん、殴られて怪我したし、愚痴(と言いわけ)ぐらい聞いてくれたっていいじゃないか。

「ほんと不運だよな…」
「自業自得だろ」
「せめてなぐさめて」
「承知したさあ来いよ」
「やっぱ結構です」

遠慮すんなよ相棒。けらけらと笑うこいつはあったかくて、突き放すようで最後にはやっぱり優しい。

悪戯にわらう横顔の矛盾