ため息まじりの金曜日


「腹へった」
「カバンの中。チョコある」
「よっしゃ、珍しいな」
「庄司がくれた」
「ふーん」

東条さんのいる席の机に座って、いただきます、とそれこそ子どもみたいに嬉しそうな声で東条さんのチョコをほおばる。甘いものが好きなアニキも格好良い。
しばらくして、誰かと電話を終えた東条さんは、少し真面目な顔してアニキに向き合った。心なしか穏やかな顔だと思う。あの東条さんが。

「男鹿」
「んあ?チョコなら食ったぞ」
「いや違う、…暇か?」
「はあ、暇だけど」
「そうか…あの、さ、」

あの東条さんがアニキ相手にどもっている。さすがだ。思いっきりバシッと頭を叩かれて「うおっ」みたいな抜けた声を出した。東条さんが。アニキは呆れた顔をして東条さんの隣に座り直す。

「男鹿お前、いってェ…」
「はやく言えよ、オドオドしやがって」
「…いや、あのさ…」
「なんだよ?」
「オレん家来ないか?」
「今日学校終わったらだろ?」
「…今から」
「はあ?なんで」

だよなあ、と少し寂しそうな顔をして(そう見えた)、東条さんはがっくりとうなだれた。どうしたんだよいきなり、と不思議そうな顔をするアニキに、バイト代わってくれって言われてな、と萎んだ声が返った。

「んで?代わったのか」
「…断れなくてな…」
「お人よしすぎんだろ。今日はお前ん家に強制連行じゃなかったっけ」
「すまん…」
「…まあいいけど。ほら行くぞ」
「…へ?」
「メンドクセーけど、今から行けばいいんだろ?」

優しいアニキもやっぱり素敵だ。だけど何で、やたら東条さんに優しいんだろう、面倒くさいなら断ればいいのに。
ガタッと音を立ててアニキが席を立った。ほんとに帰るのか。あ、こっち来る。

「あれー山村くんじゃん」
「あっ古市さん、どうも」
「どーしたのこんな所で」

どうしようかと迷っていたところで、コーヒー牛乳を持った古市さんに肩を叩かれた。このタイミングなんてさすが智将だ。あんまり関係ないけど。

「いや、アニキと一緒に昼メシ食おうと思って…」
「男鹿と?呼ぼうか?」
「いやなんか帰るみたいで…あっ来た」
「あー古市、オレ帰るから。ん?カズなんでここにいんだ?」
「まじで帰んの?東条、さんも一緒?」
「お、おお、こいつ借りるぞ」
「いや別にいいですけど…」
「そゆこと。じゃー」

ばたばたと響く足音が、消えていくのを聞きながら呆然と立ち尽くす。あのふたりどういう関係なんですか と呟くと、知らない方がいいんじゃない と意味ありげな笑いが返ってきた。昼メシ、どうしようかなあ。