答えはあとで


たまたま会ったから、っていうのは言い訳じゃない。実際そうなんだし。さらに後ろ乗るか、なんて言ってきたのはこいつだ。オレは言われたから乗っただけ。それだけだ。
なのになんで何も喋んねーの、なんで静かなの、つか東条お前、でかすぎてオレ前見えねーんだけど。

「…おい」
「ん、おお、何だ」
「何か喋れよ」
「話題提供、は、苦手だ」
「…あっそ」

せっかくのオレの配慮(になっているかは知らない)が10秒で終わるあたり、無理しないのが1番賢いと学んだ。よしもう放っとこう。ベル坊、しっかり掴まっとけよ。

「やべっ」

交差点を過ぎた辺りで東条がいきなり声を上げた。オレは前が見えないからどうしようもない。
なんだよ と聞くとケーサツ、 と返ってきた。ああそりゃ焦るわな。なぜかオレらの学校は、やたら目をつけられているらしい。警察に。そりゃそうか。

「男鹿、裏道に逃げるからしっかり掴まってろよ!」
「は、どこにっうわ!」
「飛ばすぞー」

反射的に腰に手を回してしがみつく。背中のベル坊を心配した、けどムダだった。すげぇ楽しそう笑ってるんだけど。うんまあ、デスヨネ。
ていうか東条お前、飛ばすぞじゃねーよせめて言ってから飛ばせクソ野郎。振り落とされるかと思ったわ。

「巻いたか?」
「ああ、来てない」

そーか 危なかったな、と笑う東条はまた、ゆっくりと自転車を漕ぎはじめる。まあお前なら、捕まらない気はしたけどな。
なんとなくそのまま腰に手を回していると、東条はまた喋らなくなった。
どくどくと、少し速い心臓の鼓動が何気に心地好い。やることもないし、このまま寝てやろうか。

「心臓うっさ」

飛ばした後だ、そりゃ速くなるよなあと思いながら何気なく口にすると、東条が少し動揺したのが分かった。自転車がぐらりと揺れる。また警察かと思ったが、どうやら違うみたいだ。

「いや ちが、オレ人見知りなんだよ」
「はあ?なんだよいきなり」
「緊張とかじゃないからな!」
「…緊張?してんのか?お前が?」
「ああもう!しょうがねーだろ!喋れないで悪かったな、」
「…はあ」

何焦ってんだよこいつ。オレの声聞こえてないの?つーか緊張してるって誰に?オレ?オレしかいないのか?緊張して喋れなかったのか?だから静かだったの?
いろんな疑問が頭に浮かぶ。解決しないままなのは好きじゃない。

「おーい東条くん?」
「…なんだよ」
「なんで緊張してんの」
「…うるっせーバカ」
「なんで?」

だけど聞いたところで簡単に、答えは出なかった。残念。しょうがないからとりあえず頭から消して寝ることにする。潔いのが自慢だ。

「ちょっと背中借りるぜ」

お、おう と上擦った声が聞こえて笑えた。あ、まだ心臓うっせーや。