慣れってやつ


中学の頃から、毎日と言っても過言ではない程に、男鹿は学校帰りにコンビニでコロッケ(パンを含む)を買って食べていた。始めはよく飽きないなあと感心していたが、いつからかオレも、肉まんよりコロッケ、やきそばパンよりコロッケパンを選ぶようになっていた。なんでだっけなあ。さすがに覚えてないけど。

屋上で、意味もなくふと思い出した記憶を辿りながら、手に持っていた袋から昼メシを取り出す。うん、やっぱりコロッケパンだよな。

噂の男鹿はというと、さっき廊下で2年に喧嘩を持ち掛けられていた。もう慣れすぎた日常茶飯事のような光景に動じることもなく、とりあえず昼メシを食べようと、オレはこうして屋上に来たわけだ。慣れってコワイ。

ずずっと音を立てて牛乳を飲み干す。半分残していたコロッケパンを堪能しようとした時、聞き慣れた声が耳に留まった。ああ、オレの平和な昼休みを返せ。

「古市くーん」
「なんですか男鹿くん」
「ちょーうーだーい」
「喧嘩は終わったんですか」
「おう、全員サヨナラよ」
「ダッ!」

見せたかったぜあの土下座、と悪魔のような笑みを浮かべて男鹿はオレの隣に座った。背中に引っ付いているベル坊だって、明らかに機嫌が良い。そりゃそうだ土下座の後だもんな。

「来るのはえーよ」
「あん?何か言ったか?」
「いや気のせいだろ」
「お前いっつもコロッケパン食ってない?」
「お前はいっつもオレのコロッケパン奪うよな」
「だって好きだもん」
「もんじゃねーよアホ」

だいたい古市はオレのために買ってんだろ?と理不尽なことを口にする男鹿につっこむ前に、ああ なるほどなと思ってしまった。いや、嘘だと思いたいけど。
思い返せば、オレが食べるときは絶対、こいつが隣にいた気がする。だからか?どっかで安心してんのか?よくワカラン、だっているのが当たり前だし。いやこれが慣れってやつか。とか何考えてんだもう意味わかんねえ!

「…なあ男鹿」
「ん?」
「オレ、お前のためにコロッケパン好きになったの?」
「いや…オレに聞かれても困るんだけど…」
「だあよなあ…」