そこには、そいつ以外全員倒れていた。こもったような鉄の臭いに眩暈がする。ただ1人、立っていたそいつはふらりとよろけて、崩れて膝をついた。ぼろぼろじゃねぇか。

「馬鹿じゃねぇの」

出来るだけ、冷たい声を捻り出しながらゆっくりと近づいた。少し気を抜けば声は震えてしまいそうだった。我ながら情けない。

「…東条か」

倒れた奴らを見ながら男鹿は、静かにそう言った。目は合わない。オレはといえば、なにか男鹿との間に感じる、見えない隙間に踏み込むのが怖くて、あと10歩のところでつっ立っているままだ。

負けないとは思っていた。確かに。だけど何処か怖かった。なぜか解らないけれど。心配の方が大きいに決まっている。だけど独りでここに倒れる全員を相手にやり合ったこいつに、怒りが沸いて仕方がないのだ。震える拳がどちらの感情なのかは、自分でもよくわからない。

「何しに来たんだよ」

男鹿の投げ捨てたような言葉に、何がが音を立てた。ぐっと握った拳を合図のように、男鹿との隙間なんか関係なくオレの足は動いていた。胸倉を掴んで引き寄せる。やっと目が合った。汚いツラしやがって。ざまあみろ馬鹿野郎。

「…なん、で お前が泣きそうなんだよ」
「うるせぇ殴るぞ」
「はっ 殺す気かよ」
「殺してやろうか」
「…つーかいい加減、離して、」
「無茶しやがって」

男鹿の顔が滲む。心配したんだぞ、と吐き捨てるように口にして、泣いているのがばれないように強く抱きしめた。

「…ごめん」

ちいさくちいさく、消えそうな声で男鹿が呟いた。オレの心臓に近いところで、ちゃんと息をしている。謝るならすんなよ、なんて簡単な言葉は、喉元で止まって上手く出てこない。

「男鹿」
「え、」

乾いて冷たいと思った。だけど構わなかった。どこにも逃げないように、逃がさないように、これ以上傷つかないように、優しくキスをした。土の味と、少しの血の味だけが口内を満たしたけれど、正真正銘、それが男鹿だ。


どうやら生きてる