えくぼの作りかた


珍しいな、と思った。近づいてもまったく起きる気配はなくて、男鹿くんは小さく寝息を立てている。隣に座る古市くんは、ぼうっとパックジュースを飲んでいて、僕に気づいて手招きしながら、口に指を当てて笑った。

「しー、こいつ寝てるから」
「うん。珍しいね」
「んん?何が」
「男鹿くん。起きない」

古市くんの隣に、同じように座る。いつからいたのかなあ。
特に会いたいとか、そんなんじゃなかった。暇だと思うと、無心に僕の足はふたりを探して動いていた。それだけのことだ。なのになんでかな、いざふたりを見つけてみると やっぱり僕は入る隙間がないのかと思い知らされるような気持ちになる。すごく、勝手に。

「そうか?こいつ1回寝たら、なかなか起きなくね?」

古市くんは笑って、また僕を突き放す。わかってる。これも勝手な思い込みだ。
それは古市くんだからじゃないの、なんて言えるはずもない。喉まで出かけた言葉を飲み込む。いい返事が見つからなくて、笑ってごまかした。
何か理由を見つけて、帰ったほうがいいのかな。俯いていると、古市くんの楽しそうな声が落ちてきた。

「つーかびっくりした」
「え?」
「男鹿がね、お前のこと待ってた」

あ、内緒だぞ。ばれたらオレが殺されるから!と古市くんはおおげさに笑う。僕の思考は停止。古市くんの言葉が紡がれるのを待って、必死に頭を回転させた。どういうこと、だ?

「ここに来てすぐ、三木が来たら起こして、って言って寝たんだけどさ」
「う、ん」
「オレはずっと寝るための口実かと思ってた。あ、変な意味じゃなくてな」

でも男鹿は、お前が来るって分かってたんだな。本当に来たとき、正直スゲーって思った。

男鹿くんと古市くんはいつも簡単に、僕の心臓を掴んで逃げられないようにする。これだから、離れたくないと思ってしまう。もっと近づきたいから、すぐ不安になって勝手に嫉妬する。こんな自分は嫌いだけど、2人の隣で笑っている自分は好きだ。

「そろそろ起こしますか」

古市くんは、持っていた紙パックを潰してそのまま、男鹿くんへと投げた。見事なクリーンヒットに思わず、顔を見合わせて笑う。

「おはようございまーす」

古市くんがまた笑う。目が合うと、男鹿くんは おーと答えて紙パックを投げ返してきた。