きみに浸かる


「これ、うまそう」

それだけ言って男鹿は、ぽいっと新商品らしきパンをほうり込んだ。オレの持っているかごの中に。でたよ必殺技。

「いい加減自分で買えよ」
「えー!ケチ」
「ケチで結構」
「お前…今日からあれな…ふるけちな」
「ちょうおもしろくない」


男鹿は新商品とか、期間限定にとてつもなく弱い。女子に負けないぐらい弱い、と思う。まあ、弱いというかだいたいは、好奇心から来ているものだと思うが。

それチョーダイ、あれ欲しい、これどんな味すんの?昔から男鹿が言っている台詞だ。全てが興味の対象かのように、子どもみたいに目をきらきらさせて聞いてくる。
瞳孔って、興味の対象が近くにあると広がるんだってさ。それを知った時、ふと男鹿を思い出して、ああこういうことか、と納得したっけな。懐かしい。


「なあ、男鹿」
「ん?」

コンビニから出て、すぐさま新商品のパンを食べはじめた男鹿を呼び止める。残念、やっぱりいつもの無愛想な顔だ。違うのはパンを頬張っていることだけか。どうでもいいけど、リス見たいな食べ方だなあ。

「…広がんねー」
「ハア?なんだよ?」
「お前こう、もっとオレのこと知りたいとかさ…なんかねーの?」
「いやだすごい気持ち悪い」