※よくわからない設定





いつでも呼べよ、と言われていたのを不意に思い出す。生憎、外はざあざあ降りで、傘は朝、知らない奴を殴るときに使った。言い訳をしておくがオレは悪くない。向こうが勝手に絡んできたんだから仕方ない。

「ダー…」
「しょうがねーか…」

ポケットから取り出した携帯のリダイアルを開いて、1番上の名前を選択。発信ボタンを押すと、3コール目で聞き慣れた声が耳元で笑った。出るのはえーよ。




「待たせたな」
「いや、悪い。助かった」

助手席に乗り込むと、いつもと違う匂いがした。口に出す前に東条は、かおるの車なんだよ、と隣で笑った。またなんかやらかしたのかよ。

「まあ免停にならないだけましか」
「ん?なんか言ったか?」
「いや」

別に運転は荒くない。意外と。ベル坊がその証拠として、気持ち良さそうに寝ている。赤ん坊が服を握る力は、強いということを最近知った。寝顔はかわいい。
雨はますますひどくなって、ばたばたと重たい音が響いて耳に届く。静かな空気に欠伸をひとつしてベル坊を抱え直した。これは確かに眠くなるな。
腹減った と何気なく呟いたのを拾われて、コンビニでも寄るか とハンドルを切られた。そういうつもりじゃなかったのに。金、持ってないんだけど。

「何が食いたい?」

自分が出すのが当たり前みたいに話すこいつが、優しい と思うと同時に悲しい とも思う。そんなことしなくても、オレはどこにも行かないのに。

「…なんでもいい、あと、お前の家で食べるから」

だからオレは、東条の気持ちを掬って綺麗に飲み込む。そうか、と頭を撫でた左手がひどく優しい。


おまえは獣にはなれない