ファッションイズム


どうしたんだよそれ、と指さすといいだろこれ、と返ってきた返事。趣味悪い、っつーかセンスおかしいんじゃないの。頼むから満面の笑みでこっちを見るな。

「男鹿にもやろうか」
「いい いらない 遠慮するわ」
「お揃いはいやか」
「そこじゃねーよ。いやだけど。本気で買ってこないでね」

なんでオレがうさぎやらくまやら描いてあるようなかわいらしいパジャマを着ないといけないんですか。お前それで深夜に外歩いてみろ、捕まるぞ。

とりあえず他の服を用意してくれと頼むと、そんなにか? と柄にもなく、しゅんとしているのが目に見てとれた。なんなのこいつ。いつもの迫力はどこに行ったんだ。まったく、こういうギャップを見せられるのだから弱ってしまう。計算しながら行動できる奴じゃないからなおさらだ。

「東条のくせに」
「え?なんか言ったか?」
「べつに」

オレばっか、変にドキドキして馬鹿みたいじゃねーか。いやべつに可愛いとか思ってないけど。
東条が出してきた普通のTシャツを頭から被る。でけぇよ。

「男鹿」

拍車をかけるように、背後から優しすぎる声が聞こえて、思わず少し身構えた。どっから出してんだそんな声。心臓に悪いからやめてくれ。
無言の抵抗もむなしく、強い力でぐっと引き寄せられる。すっぽりと収まってしまう自分に、悔しいと思う。

「…もうお揃いとか言わねーから」
「はぁ?ほんっとわかってねぇ…まあいいけど…」
「え、怒ってんじゃないのか?」
「怒るようなことはされてない」
「嫌いになんないでくれな」

ぎゅうぎゅうと力いっぱい抱きしめられて、痛いと思ったけどとりあえず我慢した。「嬉しいけど、緊張すんなぁ」なんて、ありえないぐらい東条は優しく笑う。緊張してんのかよ。
なんだかなぁ。一生敵わないような気がするのはオレだけか。こんなやつにかわいいなんて、もう手遅れだ。