間違ってないけども


それに気づいたのは着信から40分が経った頃だった。やっちゃったよ。かけ直しても出ないからしょうがなく、歩いて10分の場所に足を運んだ。怒ってませんように。祈りながらインターホンを押した。

「あ、たかちゃんだー、辰巳なら部屋にいるけど」

男鹿が唯一、頭のあがらない姉の言葉を聞いて少し不安になり、玄関へと足を踏み入れた。やっぱ部屋にいるんじゃん。おじゃまします が無くても気にならないぐらいに、何度も行き来した場所。一直線に男鹿の部屋へ向かった。

「…男鹿ー」

残念、ヒルダさんはいない。いるのは俺に足を運ばせた張本人と、緑の赤ん坊だけだった。ダア!嬉しそうな声と一緒に、ベル坊は右手を上げて挨拶。よしよしいい子だな。だけど座っている場所は男鹿の腹の上だ。

「よっベル坊。パパは寝てんのか」
「ダーッ!ア!」

だから電話でなかったのか。納得。ベル坊がばしばしと両手で腹を叩いてみても、男鹿は一向に起きる気配はない。一度寝たらなかなか起きない、さらに寝起き最悪なこいつだ。オレが下手に起こしたらどうなるかは目に見えているので、ここはベル坊に任せておこう。だけど男鹿、はやく起きないと魔王の子どもが癇癪を起こすぞ。

「アゥ、アー…」
「わーやばいやばい!ほらよしよしいい子だなー」
「おわっ、なんだベル坊眠いのか…あれ古市?」
「…起きたよ」

どうやらベル坊のぐずりに敏感に反応するようになったらしい。親だ。ウン、成長したな。だけどあれ?なんでいんの みたいな顔でこっちを見るのはやめろ。

「呼んだのはお前だ」
「あ?あー…そうだっけ…そっか…」
「寝ぼけてんなよ」

オレが抱き抱えたままのベル坊を見て思い出したらしい。ヒルダが魔界に帰ったからさ と納得したように頷いてベル坊を抱き上げた。

「いやあの 詳しくお願いします」
「あ?だからヒルダが魔界に帰ったんだよ、理由忘れたけど」
「だからオレを呼んだのか?」
「ウン」
「ウンじゃないわ。なんでだよ」
「古市ばかめ、ヒルダがいなかったらお前が母親だろ」

ちょっと待ていつからそうなったの。なんで当たり前みたいな顔してんだよ。なんだこいつよくわかんねーんだけど。ちなみに4日ぐらいヒルダいないらしいから、って、4日もお前の家にいないといけないのか。誰か助けてくれ。
…いや待てこういう時こそオレの得意技を使うべきだ。開き直れ前向きに考えろ、智将古市!


「そうか…」
「なんだよ?」
「わかった…腹くくるわ。いっそのこと結婚すればいいんじゃねーの?」
「……いきなり呼んでごめん俺が悪かった。帰っていいぞ」