ゆびきりげんまん


「オレがまだ石矢魔に入学してすぐの頃、バイトの合間に河原で煙草吸ってたんだよ。ああ、まあそのころはそれがカッコイイと思ってたんじゃねーの。恥ずかしいから聞くなよ…、そしたら目つきの悪いガキがこっちに向かって歩いてきてな、あ、ガキっつっても中学生ぐらいの奴だと思うんだけどな。まあそいつがいきなりオレのこと殴ったわけだ。いやー不意打ちだったし中学生にしちゃーやたら重いパンチだったなあ。はずみで落ちたオレの煙草踏み潰して「未成年が煙草吸っちゃいけねーことぐらい知ってんだろ」って言ってきたんだよ。思わず殴り返してやろうかと思ったけどそいつの言うことは何も間違ってなかったし、そうか って言って河原に煙草投げ捨てたら、最初の仏頂面が嘘みたいに崩れて、口が寂しいなら煙草なんかじゃなくてこれでも食っとけよ なんて言って 笑いながらなぜかコロッケパンくれたんだよ。え?あぁごめんごめん。お前かくれたコロッケパン見たらなんか思い出してさ。まあ聞き流しといてくれよ。だからオレはそれから煙草は1回も吸ってない。なあんか、あの中学生のことが忘れられなくてさ。くらったパンチとかふてぶてしい顔とか、たぶんそいつもやんちゃで暴れん坊だろうなって分かったんだけど、そんなやつに煙草を注意されて、なんかこのままじゃいけねえと思ったんだよ。中学生に煙草注意されるなんてカッコ悪いだろ?懐かしいな。え?見た目?ああお前よりもう少し、前髪長かったかな。あんま覚えてないけど。…前から思ってたんだけどお前、なあんかそいつに似てんだよ。まあいいや。とりあえず今そいつに会ったらちゃんとお礼言いたいと思うんだよな。他の奴らみたいに煙草とか酒とか、未成年のうちからそういうもんに身を投げたくないって考えがちゃんと出来たのは、そのガキのおかげだと思ってるからよ」


「そうか。仏頂面で悪かったな。じゃあお礼はいいからジュース奢ってくれよ」
「え、なんで?」