勘弁してください



古市と男鹿


「よ、男鹿」
「おー」

学校に行く途中、オレと古市はだいたい同じ場所でたまたま会って、そのまま一緒に行くことが多い。今日もいつも通りだ と思ったのもつかの間、古市がなにかを匂い始めた。何やってんのこいつ。

「…男鹿」
「なんだよ気持ち悪い」
「お前だ、お前から甘い匂いがする」
「は、ちょっと待て近づくな」

近すぎる!と古市をぐいっと押しのけると、背中でベル坊が、楽しそうにダア!と叫んだ。ああそうか、もしかして。

「古市あれだ、ベル坊のミルクの匂いじゃねーか?」
「男鹿、どうしようやばいなんかドキドキすんだけど」
「触るな人の話聞けよ殴んぞ」



東条と男鹿


昼休みに購買に行こうと歩いていると、前から東条が来るのが見えた。相変わらずでけえ。邪魔なんだけど。

「待て男鹿」

横を通り過ぎようとした時、いきなり声をかけられて思わず ハア?といいながら振り向いた。急いでる時に限って話かけてくんなよ。

「男鹿…お前なんか」
「あ?なんだよ購買行くから早くしてくんね?」
「あれだ…乳くさい」

すんすんと、動物みたいに鼻を鳴らして東条はそう言った。うわあまたかよ。どうでもいいけど乳くさいはないだろ。ていうかメンドクサイ。

「あーあれだ。ベル坊のミルクだ多分」
「そうか…どうしよう、男鹿」
「なんだよ…」
「ムラムラしてきた」
「やめろまじで勘弁してください」



邦枝と男鹿


購買で買ったパンをかじりながら屋上への階段を上がる。なんなんだ今日は。制服にミルクをこぼしたわけでもないのにおかしい。ていうかなんで男に匂われないといけないんだよ、すげぇ気分悪い。

「…男鹿?」
「ん、なんだ邦枝か」
「なんだって何よ。…あ、ねえちょっと待って」
「…ああ、なに乳くせえ?」
「その言い方やめなさい馬鹿!でも確かに甘い匂いがするんだけど」
「なんか今日やたら言われんだよ…」
「あ、ミルクの匂いが染み付いてんじゃない?」

ほら、いつもミルクあげてるし、と納得したようにベル坊を抱き上げた。なんていうか、さすが女だ。ベル坊も相変わらず懐いてるし。

「…やっぱお前が母親でいいんじゃね?」
「えっ、な なによいきなり!」
「なんで赤くなるんだよ」