130円の素直


「よぉ」

コンビニのバイト中、見慣れた茶色が現れて思わず頬が緩んだ。
時計は0時30分過ぎを指している。また追い出されたか。親は大変だな。まあオレにとっては好都合だが。
心中でいろいろと考えを巡らせているオレなんか気にせずに、男鹿は目の前にプリンやら牛乳やらをドスンと置いて 奢ってなんてことを言いはじめた。なんつーか、ほんと遠慮を知らないよな後輩のくせに。

男鹿はたまに、ベルの夜泣きのせいで家を追い出されるらしい(どんな家庭だかは疑問だ)。そういう時にふらりとコンビニに現れて、1日だけ泊めてくれと頼んでくるのだ。今日で何回目かはあまり覚えていないけど、日頃から、男鹿が来ないかと少し期待しているオレがいるわけで。本人には絶対に言わないけど。

「これ全部、ベルのか」
「当たり前だろ」
「ダッ!」
「ご機嫌だなベル坊。嬉しいのか」
「ベルはいい子だな。お前も素直になったらどうだ男鹿」
「好きで来てるんじゃないんだけど」
「はいはい。あと30分ぐらいだから」
「うん どうも」

プリンやら牛乳やらを丁寧に袋に入れていると、ちゃんと金は払おうとするからいちいち可愛いと思ってしまう。いいから と小銭を返すと悪いな と頭を下げられた。頼られてるんだからむしろ嬉しいんだっての。


「あ、これは自分で買う」
「ブラック?飲めるようになったのか?」
「ちげーよ馬鹿。お前の分。まあ 迷惑かけてっから」
「…男鹿お前」
「ってベル坊が言ってた」
「アー!」
「待ってっからはやくしろよ」
「ははっ はいはい」

ま 頑張れと小銭を置いて、持っていた袋の中にブラックコーヒーも一緒に入れて、男鹿は外に出て行った。中で待てばいいのに。
後ろ姿を自然と目で追って、ふと気づいてしまった。耳赤いんだけど。

「素直じゃねーの」

時計をちらりと見ながら思わず呟いた。あと20分。はやく終わんねえかなあ。