全てを受け入れることを拒否した罪


「聖騎士長。お呼びでしょうか。」
「名前1、か。今日はな、特別な話があるんだ。ちょっと付いてこい。」

そう言われついて行って案内されたのは暗い洞窟の中。蝋燭で照らされたのは魔神族だった。気色悪い。そう内心で思うが顔には出さない。ここ数年で身につけた技だ。あの人に会うとことごとく失敗してしまうが。

「これは?」
「私が研究していたものの材料だよ。これを飲めば、君はもっと大きな力が手に入る。どうだ?飲むか?」

疑問形で終わっているのが笑える。どうせ、断ったなら即座に殺すくせに。
魔神族の血。それは大いに興味があるが、飲むとなると話は別だ。どうなるのか分かったものではない。

「……これを飲むといかように?」
「今の力など比にならぬ程の力が手に入る。」

今更、力なんて求めてもなぁ。俺はあの人の隣に立ちたくてただがむしゃらにやっていただけだから、もう、聖騎士になってしまった今、どうでもいい。例え、どの聖騎士よりも力が弱いと思われていてもだ。

「ここで断ったら俺はどうなるんでしょうね?……ぁあ、そんなに怖い顔しないでください。飲みますから。」

一瞬殺気が、飛んできたが俺が飲むといったらそれも和らぐ。本当にこの人は単純だ。だから、あの、なんて言ったっけ?ドレファス?が乗っ取られるんだよ。
調べてみたらあっけなくその事実が出たから正直自分の目を疑った。あの人は本当に人間みたいに振舞ってるから。

「ほら、飲め。」
「では、素晴らしき日に感謝を。」

飲みたくもないものを口に含むとはこれ程に困難極まる事なのかと今初めて知った。まずい。不味すぎる。
ゴクリ。と無理矢理にも喉を通せば身体中が熱くなった。何かに体のうちから焼き尽くされそうになる。平常心を保て。体裁を崩すな。奴らの、魔神族の下に下るな。俺が、俺こそが魔神族を下すのだ!

「ほぅ?ここまで何も反応を示さないのも初めてだな。」
「……っ身体の熱は収まりました。これでもう、良いでしょう。」
「あぁ。」

さっさとその場から立ち去る。あぁ、嫌だ。自分の中に違う何かを感じるのだ。気持ち悪い。吐きそうだ。
しかし、ここで吐いてしまったら。また、雑魚どもに殴られる。いつもならいなして終わるが今回は体調が悪すぎる。最悪諸に攻撃を受けてしまう。

「っくそったれ!」

目の前が歪み。正常に歩いていられない。くそ。あと少しだというのに。自分の部屋についてしまえば、どんな醜態でも晒せるに。

「うっ……ぉえ。」
「名前1大丈夫か!?」
「ギル……。なんでも、ない。大、丈夫……。ただ、少しだけ体調が悪いだけだから。」

倒れそうになった身体をギルが支えてくれたらしい。良かった…。ギルで。
この身体の中の存在は俺にとってデカ過ぎた。普通の人間ならただ魔神どもに乗っ取られるだけ。だが、聖騎士になるまでの力がある者がこの魔神の力を入れたら拮抗しすぎて体が滅びてしまう。
あの、ボンクラ聖騎士長俺を実験に使ったとか。

「おい、名前1、ますます顔色が悪くなっている。運んでやるから今日はもう休め…。」
「…っ、ごめん。ギル。」
「いい。そんな謝るな。」

そこからの意識はない。

***

あの日からどれ程経っただろうか。
目の前に俺の最愛の人物がいる。だけど、俺のこんな姿見せたくはなかった。こんな醜い姿を見せるくらいならあの時あのボンクラ聖騎士長に殺されていれば良かった。
涙が溢れて溢れて止まらない。いつもならそんなことあるわけないのに。

「ぁ、あが、ぁ゛あ゛ぁぐっぁ゛あああ!」
「名前1!なんでお前もそんな姿に!」

見ないで。お願い。見ないでください。こんな姿貴方だけには見られたくなかった。それならいっそどうか殺してくれ。魔神族の手に落ちたただの聖騎士として殺してくれ。貴方が知っている俺でどうか死なせてくれるな。
俺の力を取り込んだ魔神は他の奴らよりも強い。だから、貴方にしか倒せないんだ。メリオダス。

どうか早く殺しておくれ。俺が愛したリオネスの、街を、人を殺したくはないんだ。

「名前1、大丈夫だ。今から、助ける。」

ふわりと笑い一瞬にして俺の身体の一部となっていた魔神族の体を粉々にした。急速に重力を感じ落下していく。それをメリオダスは受け止めてくれた。

「どうして…。私なんかを。」
「お前なんかじゃない。名前1だから、ここまでしたんだ。」
「違う!そうじゃない…。私を助ける道理がわからないんですよ。魔神族と共に消し去っても良かったのに。」
「名前1、それ以上言うとお前でも怒るぞ。
自分の好きな奴を守れない奴は男じゃねぇよ。」

そうやって、貴方が穏やかに笑うから涙が出てしまう。俺を責めもしないで、許すから。もう、いいかな、なんて。ザラトラス様を殺したのが貴方だと聞いた時世界から色が消えた。そして、恨んだ。

………貴方を追い出した世界を。

でも、貴方が、メリオダスが何でもないと言うように笑うから。俺は世界を許そう。

「……ありがとう。貴方がいて本当に良かった。
ありがとう。この世界に生まれて来てくれて。
助けてくれてありがとう。
大好きだよ。我が最愛のメリオダス。」


Fin




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