6


太陽が高く上がり、陽が木の陰から差し込む。太陽の光に輝く乙さんはとても綺麗で儚い。その姿がどうしようもなく母さんに似ていて微笑んでしまう。もう、辛くない。例え、母さんの事で辛くなったとしても父さんがいる。若菜さんやリクオだっている。家族になろうとしてくれている人がいるんだ。

「さて、私はそろそろ自分の体に戻ろうかな。今なら清々しくて戻れそうだし。」
「はい。お気を付けて。体、すぐに動ける様になると良いですね。」
「うん!あ、そうだ。名前1君、ちょっと来て。」

まだ、何かあっただろうかと近づいて行くと抱きつかれる。突然の事に硬直していると乙さんが笑う。

「ふふふ、そんなに緊張しなくて大丈夫よ。
ねぇ、名前1君。今でも自分は愛されない、なんて思ってる?」
「それは…。」
「私はね!好きだよ名前1君のこと。
名前1君、本当は気づいているよね。自分がいろんな人に大切にされてるって。だけど、鯉伴さんとの件があるから素直になれない。自分すら偽っている。
少しさ、少しだけでいいからさ、素直になってみなよ。大丈夫。名前1君が素直になっても皆、愛してくれるよ。」

乙さんの言葉に震える。泣きそうになるのを堪えているとまた笑われた。その笑い方が愛おしそうに笑うからまた、泣きそうになる。この人はどれだけ俺の涙腺を壊したいのだろう。

「鯉伴さん。名前1君。

本当にありがとう――――。」


そう言って乙さんはかえって行った。

風か吹き桜が舞う。その風がポロポロとこぼれ落ちる涙を攫っていく。

「名前1。」

父さんが俺を呼ぶ。でも、振り返りたくない。絶対に情けない顔をしているから。泣いている顔なんて絶対に。
ぽんぽんと背を叩く父さん。それに縋りたくなる。けれど、縋ってしまったら最後。涙が止まらなくなってしまう。だから、俺は踏ん張るんだ。笑顔になろうとするんだ。
笑顔でかえった乙さんの為に。

「俺の方こそ、ありがとう。」


Fin




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