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「名前1さん。情報がはいりました。」
「あ、黒羽丸か。どう?見つかった?」
「はい。見つかったは見つかったんですが……。」
「ん?」

内緒話を話すように耳打ちしてきた内容に思わず納得した。
いや、だってあの人全然畏ないんだもん。

「乙さん。」
「おうよ。なんだい名前1君。」
「見つかりましたよ。貴女が探してた旦那さん。だけど、乙さん。貴女に鯉人さんに会う覚悟があるとは思えない。」
「な、何よそれ。私はずっと鯉人さんを探していたの。その覚悟を見誤わないで。死んでも一目会いたいからここにいるんじゃない。」

その大前提から間違っているというのにこの人は…。まぁ、こっちの世界に来たことがない人だったからしょうがない。けど、死んでいると思い込んだままあそこに2年間もいるなんて。この人はどれ程自分を虐めたいんだろうか。

「貴女は、自分が本当に死んでいる、と思っているんですか。」
「え?なにそれ。当たり前じゃない。足も透けてって、透けてない!なんで!?」
「そうです。貴女は死んでない。ただ魂が抜け出てしまっただけ。さて、乙さん。貴女にもう1度聞きます。皇鯉人さんに会う覚悟はありますか?」

子どものように目を輝かせ笑う乙さん。頭がもげるかと思うほどぶんぶんとふるから心配になってしまう。何も言わずに微笑む俺の手をとって一緒に跳ねる乙さんは本当に若菜さんに似ている。

「ありがとう。名前1君。貴方に会えてよかったわ。」
「そう言っていただけると嬉しいです。では、行きましょうか。」
「うん!」

乙さんが入院している病院に連れていく。そして、窓の外から病室を乙さんにのぞかせる。そこには2年たった今でも決して彼女の目を覚ますことを諦めない鯉人さんがいる。なにも反応を返さない彼女にその日の出来事を詳しく話す。彼女が目を覚ました時に変化を恐れないように。

「うっわぁ。私、本当に生きてた。鯉人にも迷惑かけてるし。」
「彼は、ここ2年間欠かさずあなたの所に来ていたそうですよ。」
「……そっか。そっかぁ。」

声が震え涙を流しているのがわかる。けれど、声には安堵しかみえなかった。

「私、なんでこんなに遠回りしてたんだろう。もっと早く戻ってこれたかもしれないのに。」
「……そりゃあ、あんたが通るべき道だったからじゃぁねぇのかい?乙さんよ。」

急に声が割って入ってきたと思ったらいつの間にか父さんが傍に立っていた。そして、なつかしむように笑う。頭をがしがしとかき、言葉を探し出すように悩む。

「この世界は不条理だ。上手くいかないことなんてごまんとある。それがそいつの通るべき道なんだよ。俺だって、本当は乙女と添い遂げたかったさ。」
「乙女、さん?」
「俺の嫁さんだよ。それで、こいつの母親。昔なぁ、組の奴らが子供を早く欲しがったせいであいつに負担をかけちまった。目の前からいなくなっちまって、な。そん時は絶望したさ。だけど、それがなかったら若菜と会えなかったしリクオとも。それに、今では乙女の忘れ形見の名前1だっている。」

父さんに頭を掻き回すように撫でられる。
初めて……。初めて頭を撫でられた。今まで、突き放すような態度をとっていたのに、なんで。突き放すような態度をとってたのは分かる。だって、突然元妻の子供が来たらどうしたらいいか分からないだろう。本当だったら、若菜さんやリクオももっと俺のこと避けてもいいはずなのに。だけど、本当の兄弟のように接してくれた。

父さんが、父さんが今本当の親子になろうとしてくれている。嬉しい。泣きそうになるくらい嬉しいんだ。

「本当はもっと最善の道があったかもしれないが、俺は、こいつらがいるだけで幸せだ。俺が全力で選んできた道、だからな。」
「鯉伴さん。……そうですね。私が選んできた道を否定してはいけないですよね。」




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