4


数日後――

「名前1君やーい。お腹空いたー。」
「え、貴女さっき食べたばかりじゃないですか。」
「女の胃はね、ブラックホールなのよ。ということでお菓子ほしーです!」

乙さんのこの言動にめまいを覚える。確かにあの会話のあと鯉人さんが見つかるまでこの屋敷に住んでいいと言った。普通の家のように過ごしていいとも。だけど、これは気を抜きすぎてないか?寝て、起きては食べごろごろしまた食べ寝る。その繰り返しだ。とても注意したい。けれど乙さんは客人だ。抑えろ、名前1!

「羊羹、持ってきました。」
「わー!ありがとう。ここは何でもあるねぇ。あ、若菜さんと食べようかな?」
「若菜さんとお会いになったんですか?」
「うん、リクオ君ともねー。でも、全然似てないね。兄弟なのに。」

この人はこんな性格だけど時々痛いところを突いてくる。別に隠しているわけでもないからいいのだけれど。その話をした後にいつもしんみりしてしまうのが嫌なのだ。俺は別に二人に負の感情は抱いていないから。

「異母兄弟なんです。俺とリクオは。」
「え……ごめん。あ、れ?でも、私名前1君のお母さんに会ったことない。」
「数十年前、確か、リクオが産まれる数年前に亡くなりました。俺は、その死に目に会えてないので確かかどうかは分かりませんけど。」
「ますますごめん。でも、そっかぁ。大丈夫?辛くない?」
「……大丈夫です。受け入れることにしましたから。母さんが奴良鯉伴という男性に会い恋に落ち俺を産んでしまった事はもう消せない事実だから。」

乾いた笑いで誤魔化すと、乙さんから平手が飛んできた。それはとてもいい音を立て俺の頬を打っていく。少し、乙さんが涙目にみえるのは俺の目の錯覚かな。

「産んでしまったなんて言わないの!貴方のお母さんやお父さん、貴方にまで失礼だわ!それに私にだって。貴方がいなきゃ私は今ここにいないわけだし。」
「いや、多分父さんだけでも…。」
「ゴニョゴニョ言わない!
ねぇ、名前1君。子供を産んだことに後悔する親なんていないんだよ。子供を捨てたくて捨てる親もいない。貴方は愛されて産まれてきたの。待望の子供だったんだよ。だからさ、そんな自分を卑下するような言い方しないで。」

本当に、乙さんには叶わない。俺の事なのに自分のことのように泣きながら話してくれる。真摯にみつめながら諭してくれる。なんでこの人はこんなにも母さんに似ているの。なんで乙さんはここにいるのに母さんはここにいないの。

泣きそうになるのをぐっと堪えて笑う。

「リクオ達家族に救われてる部分もあるんです。そこに俺が望んでいた家族がある。とっても幸せで暖かい家庭。見ているだけで満たされるから。」
「見ているだけって……。」
「見ているだけでいい。俺が入ってしまったらこの心地よい関係が崩れ去ってしまうかもしれない。それは嫌だから。リクオには愛されて育って欲しいんです。」

乙さんに手を握られる。どうしたのだろうと首を傾げるとさらに強く握られた。

「名前1君がそれでいいなら、私はもう何も言わないよ。だけど、名前1君を愛してくれる人はいるからね?」
「はい。」




|

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -