記憶

たぶん、それは若気の至りというやつで


部屋に着いてからソファに降ろされるとシンドバッドはバルバッドの地図を取り出してきた。何をするのか検討もつかない。というか、俺はシンドバッドに言いたいことがあったんだった。

「シンドバッドさん。貴方は俺に何をしましたか?」
「何かしたかではなく、何をしたと言うと俺は君の中で何かを絶対にしていることになるね。」
「違うんですか。俺は心当たりがあるんですが。」
「それは?」
「言うわけないじゃないですか。正直に言うと俺は貴方が嫌いだ。本当の貴方を知らないし、信頼もしていない。そんな相手に心の内を言えと?」
「いい答えだ。確かに何も知らない相手に話したくはないな。だが、俺と君は知人だよ。どうやら君は記憶を失っているようだがね。」

そんなことあるわけが無い。だって俺はこの世界の人間ではないのに。コイツは俺の何を知っている。

「じゃあ、俺と貴方が知人だったという証拠はどこにあるのでしょう。人の記憶ほど信頼できないものはない。」
「そうだな。君の記憶は俺をどんなふうに感じている?」

記憶が宛にならないと言ったのに何を言っているんだこいつは。でも、確かに俺はシンドバッドを知っている。漫画の世界の中でだが。ただ、俺のこの記憶が本当に正しいのかなんて分からないわけで。

耳の中、いや頭の中で鐘がなる。それは大聖堂のような所でなっている鐘の音。記憶がグルグルと引き戻される。

小さい誰かが俺の前に立っていて手を差し出している。
「やあ、俺はシンドバッド!あんたの名前はなんて言うんだ?」
「すいません。近寄らないでください。」

俺はなんと可愛げがない返事をしたんだろう。
また、鐘が鳴り映し出される映像が変わる。

「なあ紅陽。お前は俺を頼っているか?」
「なにいってんだよシンドバッド。お前と俺は――なんだから辺りまえだろ?」

とても楽しそうに笑う俺と少年。この時はとても楽しかった。

映像が変わる。
今度は何処かの部屋にいた。そこには赤髪の男が俺の前に立っている。そして何かを俺にいうと踵を返して去っていく。

「なぜ。何故ですか!兄様!俺はこの国を裏切ったりなど……!」

必死に食い下がる俺だけど男を止めることは出来なかった。

「ごめん。シンドバッド。本当にごめん。俺は君を裏切りたいわけでも苦しめたいわけでもないんだ。けれど俺にはこの国を変える権力も力もない。俺には何も出来ないんだ。」

大粒の涙を流し蹲る。


それ程までにシンドバッドという者を大切に思っていたのか。俺はこれほどまでにシンドバッドが嫌いで憎んでいるのに。でも、それは頭の中だけで、俺の心や身体はシンドバッドを求めてる。
好きだと叫んでいる。
シンドバッドは我が仲間だと訴えている。

「思い出したか?」
「俺は…何者だというんだ。あんたは一国の王だ。そんな奴と俺はどうやって知り合った?あんたは俺を知っているのか?」
「俺は君からある称号を貰っていてな。でもそれは紅陽、君が思い出して欲しい。それ以外なら俺は君の質問にいくらでも答えよう。」
「俺は、俺は誰。」
「君は……。」

シンドバッドが答えようとした時、部屋にアラジン達が入ってきた。そこで話は中断となった。


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