彼女に君の欠片を見る

からから、音をたてて


「白龍…おまえ、皇帝になりたいか?」
「それは…陛下のお心一つですが…。なぜそのようなことを?」
「…俺は…。お前と、血を分けた兄弟と争いたくはない…。だが、王は一人でなくてはならない。」
「ごもっともです。」
「いいや…。一国に限らず世界には…。ただ一人の王が必要だ…。"王の器"とは"何"なのか?俺はずっと考えていた。」

王の器、それはどこかで聞いたことがある言葉だった。どこか遠く彼方で誰かに言われた言葉。どうか選定してほしいと。ここは私にしか出来ないからと。
それは、だれに言われた言葉だったか…。ずきずきと微かに痛む頭に目を瞑る。そこで一瞬アラジンが見えた。……いや、あれはアラジンじゃない。あれは、誰だ。アラジンを大人にしたような人。近くにいるだけで力が湧いてきそうな。

ふと目を開けると全員が俺を見ていた。

「あ、すみません。少し、考え事を…。」
「はぁ…。ちゃんと聞け。」

姿勢を正し、炎兄様を見つめる。炎兄様の背後にはとても輝いているルフがいた。

「俺たちはなぜ、一つの言語を有しているのか?そこから派生した文字はあれど、世界が交差する以前から、俺たちはたった一つの言葉を持って生まれた。なぜか。それは…滅びぬために。
通じ合えず、分断され、争いの末に死に絶えぬように。かつての世界とは違う…世界を一つにするために。そのためには一人の王が、世界を統べねばならない。」

口元が曲がるのを堪えるのが大変だ。あぁ、あぁ。どうしようか。俺は確かにあの人を眠らせた。だが、その思いは俺の中に深く深く残っている。紅炎が抱いている野望は、あの人が願った思いに至るまでの近道じゃないか。世界が一つになったとき、破滅させるのは簡単だ。あの魔女は神を降臨させたいらしいが、そんなのこの世界の破滅じゃない。
紅炎に縋るでもいい、白龍について世界を滅ぼしにいくのでもいい、だが、あの魔女の言う通りだけにはしたくないな。

「この志が正しいかはまだ分からない。しかし、謎を解き明かし、おまえたちを"ただ一つの世界"の高みへと連れていきたい。
そのために、力を貸してほしい!!」

世界を救うために、俺はあの人を眠らせたのに。なんで、こんなにも俺の中のあの人の思いは強いんだ…。時々、あの人の思いが俺を覆い尽くして正しい判断が分からなくなる。
でも、今言えるのは俺は白龍と炎兄様、どちらについていけばいいのかを決めなきゃいけない。

「紅玉、お前はどうなんだ?」

先ほどからそこにあった気配に炎兄様が声をかける。振り向くとそこにはやはり紅玉がいた。だけど、どこか変だ。見た目や行動とかではない。何か、違う。
紅玉が近づく度に悪寒が身体中に走る。まるで紅玉の後ろに何か得体の知れないものがいるみたいに。
ピィイ――。とルフが鳴く。そのルフは紅玉のものだ。だけど……その中に違うルフが混ざっている。
その、ルフ、は…。

「紅玉……さ、ま…。シンドバッドと戦いましたか?」
「え?」
「バアル、を受けましたか?」
「どうした、紅陽?」
「い、え。なんでもありません。」

怯えたようにこちらを見る紅玉に逆立っていた気が静まる。今ここで何を言っても無駄だ。シンは即座に違う相手にバアルを植え付けるはずだ。


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