言葉ひとつで取り違えた仕合せ

からから、音をたてて


「あぁ……。漸く、戻ってこれた。」

被っていた布を脱ぎ、広大な土地を見下ろす。そこには見慣れた建物が広がっている。愛しい、愛しい我が、煌帝国。
ここに来れば炎兄様や、明兄様に会える!それが、本当に嬉しい。にやける顔が隠せない。

「ふ、ふふふっ。まずは挨拶かな。あぁ、"お父様"にも、か。」

俺は、"お父様"についてはあまり好きではない。色んなところに女を作っては捨てていた。"お母様"は何も言わなかったけれど、どう思っていたのだろうか。

煌帝国を見渡していた丘から下り、街に入る。皆、同じ服を着て歩いていた。その事に少しの違和感を感じた。何故だろうか。この光景は前も見たことがあるのに。
服が違う俺を物珍しそうに子供たちは見つめる。ひらひらと手を振ったらぶんぶんと手が取れそうなほど振り返してくれた。母親は青ざめた様に何度も頭を下げている。そんなのしなくていいのに。子供は好きだしー。

そんな事をしながら、王宮の門を潜ろうとした。けれど、門番らしき人に止められる。え、なに。まさか、俺だって気づかれてない?それとも、俺のこと知らない人、とか?

「貴様、何用だ。」
「帰ってきたので報告をしたいだけなんですけどね。」
「はぁ?民間人が何故、王たちに報告する義務がある。地主の元へいけ。」
「いや、家族に報告したいんだけど。」

あ、やっぱり分からないんだな。うーん。そんなに忘れられる程こちらにいなかったかな?門番だから、王族の顔知らないっていうのもありそう。

「か、ぞく……?」
「え、あー。名乗ってなかったな。俺は現国王練紅徳の息子の練紅陽だよ。」

俺の言葉を聞いた瞬間、門番は姿勢を正した。ま、赤い髪に練という名字があれば誰でも姿勢を正すか。国王怖いもんな。というか、あの魔女がか。

いつからか狂っていた、玉艶様。あの魔女は優しい玉艶様を食いちぎって出てきた寄生虫。決して好きなようにはさせない。

「通して貰えますか。もし、信じられないのなら練紅炎か、練紅明を連れてくればいい。俺があの人達の弟だとわかるはずだから。」
「い、いえ。どうぞお入りください。」

よーし、第一関門突破。ま、ここが入れればもうなんだって出来る。

「あら、紅陽さん?」

悪寒が走った。その声を聞くと傷口から蛆虫が湧き出るような気持ち悪さに陥れられる。振り向きその顔をみるとやはりあの魔女で。

「やっぱり、紅陽さん!」

とっても気持ち悪い創り笑顔をする魔女、練玉艶。こいつは、俺のことを決して排除しようとしない。それは、多分こいつにとって脅威になりえないということ。

「………玉艶様。私に何か御用でしょうか。」
「いえ、貴方今、帰ってきたの?」
「紅炎様から仰せつかっていた任務が終了したのでこちらに戻ってきたんですよ。」
「へぇ。そうなの。皇帝様には挨拶しに行ったのかしら?」
「紅炎様の従者である私の帰還など、紅徳閣下は気にもとめないでしょう。」

従者だった頃の笑いを意識する。この魔女は俺を見定めている。従者の俺はこいつがあの3人方を殺したと覚えてない、と思っているから。
早く、俺の前から消えろ。じゃないと吐きそうなんだ。この玉艶様の皮をかぶった魔女の演技を見るのは。

「そう。では、紅炎によろしくね。」
「はい。では、そのように伝えておきます。」

お辞儀をして立ち去るのを待つ。隣を過ぎ去る時に香る微かな香り。それは、気持ち悪い何かを思い出す匂いで。俺はそうそうに体勢を戻し手洗いに向かう。そこで、我慢出来ず戻してしまった。

あの匂いは、あの、香水の香りは、"お父様"のものだ。しっかりと色濃く残っていた香り。身体の隅々まで香っていた。その先を考えるのは簡単だ。嫌だ。気持ち悪い。ついに、そこまでも取り入ったのか。
まさか、体の関係まで持つなんて。

「………ありえない。」

生理的に流れ落ちる涙をそのままにし、呆然する。亡くなった兄の妻だった人だぞ。そんなに欲しかったのか。そこまで欲するような人物だったのか!あぁ、"お母様"。なぜ、貴女はあんな人を愛したのか。国の為だと言ってくれ。そうでないと、俺はあの人を、軽蔑してしまう。愛してくれた人がいたのに、違う人を求めたなんて。

だけど、否定の言葉をお母様はもう、言えない。居なくなってしまった。あの魔女のせいで!全ての原因があの魔女。あいつさえいなければ、煌帝国は壊れなかった。炎兄様が憎しみを持つことも、白龍が復讐に囚われることも、なにもなかった。

憎い、憎い、憎い!
あの魔女の全てが憎い!

ぐるぐるとルフが渦巻く。黒いルフが"元から"いたかのように体の周りを飛び回る。

「ふ、ふふ。あー、忘れていたよ。そうだ、俺は既に人ではなかった。俺は、だ………ぁあがっ。うぐぅっ、がはっ!」

頭の周りに光の輪が浮かび上がり締め付ける。黒いフルがそれに抵抗するように飛び回るが次第に力を失っていく。それに比例するように俺の意識も遠のいていく。
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