あなたの悲しみを受け止めるもの

からから、音をたてて


「いかがされました?紅陽様。」
「いや、随分と上手く事が運びすぎている気はせぬか?」
「そう、でしょうか。」
「あぁ。…………っ!止まれイスナーン!」

やはり出来すぎていると思っていたのだ。この男にしては軽々と逃げやすかった。この紅陽という人物の体をそのままにしておくはずがない。

「やはり、魔法がかかっていたか。」

だが、切り札なんてものこちらにはいくらでもある。

「おい、糞野郎。お前、紅陽が大事なのだろう?いいのか?このままお前が我を殺したら紅陽も死ぬぞ?」
「大丈夫さ。君を消して紅陽だけを助けるから。」
「くくっ。面白いことを言う。我という人格を殺すと?だがな?我が死ねば紅陽も死ぬ。紅陽とは小さき頃から共にいたからなぁ。我という人格の消滅すなわち紅陽という人物の消滅だ。」

そんなことなんとでもないような顔をこの糞野郎はするから胸糞悪い。あぁ、早く、貴方の元へと帰りたいのに。貴方との別れを作ったこんな世界など早々に壊して早く貴方の元に。

「紅陽。寝てないで、起きろ。君の最愛の人物が困っているんだ。君なら助けないわけがないだろう?ほら、起きなさい。そんな他の奴の人格なんて踏みにじって君が、紅陽が意識を持ちなさい。」

その声音が余りにも似ているから、一筋涙が流れた。あぁ、やはりこの世に繋がっていた。どうか、どうか私を思い出してくれ。ダビデ様。我が主。

愛しているのです。貴方のことを誰よりも想っているのです。貴方がいないこの世界なんてただの地獄だった。貴方がいると分かった今、この世界は最上の地。けれど。

『……ダビデ様。』
「紅陽…様?」
『我は、……私はどうすれば良いのでしょう。貴方が愛しくてたまらないのに、どうしてか悲しい、虚しい。』

貴方は多分、もう貴方のままではない。
悲しい悲しい悲しい。

「そこまで、悲しいのなら俺にお前を預ければいい。お前のその悲しみ全て俺が受け取ってやるからさ。」

お前が、代われる訳が無い。お前が今まで目を背けていたものは全て我が請け負っていたのに。

「うん。ありがとう。だから、今回は俺が君の事を守ってあげる。なぁ、――――。」

…その名を呼ぶものは久しくいなかったな。

我は、少し、疲れた。どうせ、もう、世界の終わりは始まっている。本当に終わる時まで我は少し寝ていよう。

「うん。おやすみ。」

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