君を知らない

たぶん、それは若気の至りというやつで


シンドバッドの視線を気にしながらも俺達はバルバッドに向かった。何故か俺はアラジン達に仲間と思われたらしく上手く一緒に行動できている。このまま何もなければ本当にいいんだが。やはり国の中に入ると「王政打破」などといった落書きが見て取れる。原作通り変わっちゃいない。
シンドバッドはいかにも高そうな建物の前で泊まるととても良い提案をしてくれた。まあこれも原作通りな訳だが。

「君たちの宿代は俺が出そう。助けてもらった礼だ。お金は先に来ている俺の部下が払うから…。好きなだけここに泊まっていくといいよ。あ、でも君だけは俺と来てくれるか?」

そう言って指された俺。あれ?何かした?いやまぁ年齢偽ってますけども、バレてない。なんで原作と違うのか。俺という異物があるから。だが、まだ俺に関する事までしか変化は起きていない。俺には原作を変える力はあるのか無いのか。

「俺ですか…。良いですけど。」

素っ気ない態度をとるのは相手も俺に対して何かを隠しているから。ただそれだけ。それだけでもそんな態度をとられたらいい気がしない。小さくため息を付きながら何故かシンドバッドにエスコートされる。待て、年下の男にエスコートされる三十路の男…。

俺がそうやって魂が抜けている間にジャーファルとマスルールがやって来たみたいだった。だって気づいたらアラジン達居なくなってこの人達だけだったし。何か言われるのかなぁ?なんて思って2人の方を見ると固まられた。何故?

「やっぱり驚くよな。ま、取り敢えず部屋に行くか。」

二人の疑うような視線に晒されながらシンドバッドの部屋に行くとまず服を着替えさせられた。女物の様な和服に。

「何故、俺がこんな服に着替えなきゃいけないんですか…。」
「君が武器を持ってないか確かめたかったんだよ。それと、この国では君は女の振りをしていた方がいい。もし襲われても女だと思っていた相手が男だと分かったら隙が出来るだろう。」
「これは…」

ジャーファルがつぶやいた言葉に視線を向けたらそこには金属で出来た無数の針が転がっていた。しかもまだまだあるようで俺の服からポロポロと出てくる。
あんなのが俺の服にはしまってあったのか…。

「君は一体誰なんだい?赤い髪を持つ少年よ。」
「俺は……誰なんでしょう。紅陽という名前を持っています。男です。17位だと思います。けれど、俺はそれ以外のことは思い出せないんです。貴方とあったすぐ前に俺はあの子達に起こされたから。」
「本当に君は何も知らないのか?本当に?」

じっとシンドバッドに見られる。その瞳の奥に何かが見えた。焼ける家。崩れ落ちる人々。誰かの叫び。黒い髪を持った魔女……。あいつは誰だ。この叫びは誰だ。紅い髪を持つ貴方は………誰。

知っているだろう。私は身に染みているだろう。お前の最愛なる人だろう。

練紅炎

その人だろう。

「知ら……ない。違う。愛してなんか、ない。俺が愛しているのは貴方だけなんだよシンドバッド 。」

口が知らないうちに動き出す。俺の意思じゃないのにでも、心は狂おしい程にことばに共感している。

「そうじゃない。私はシンドバッドなんか好きじゃない。私が愛しているのは紅炎様だけだ。」

誰が喋っているの。俺は2人の事をそんなに知らないのに。どうしてこんなに愛おしく感じるんだ。涙か溢れて止まらない。

「俺は、俺は……ただ救いたかっただけなのに。二人とも愛しているから……死んで欲しくないから……行っただけ、なの、に。」


ふっと目の前が暗くなる。ただ見えるのは誰かの影だけ。ここはそういえばシンドバッドの部屋だった。でももう何も考えられない。


「どうしますか。シン。」
「この子は多分、俺達の知っている紅陽だ。けれど何処か違っている。それに記憶も混濁しているみたいだしな。だが、このままこちらに引きいられれば煌帝国に良いカードが持てる。」

悲しそうな顔で笑っていたシンドバッドなんて俺は知らない。

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