陳腐なシナリオ

からから、音をたてて


ふと、目を覚ました時、そこはあの忌むべき男の城の中だとすぐに分かった。ルフが気持ち悪ほど綺麗だ。鮮やかすぎる。あの方はもっと妖艶だった。けれど、おかしい。我が出てくるのはまだ先だとイスナーンにも言っておいたのだが。
まぁ、こちら側に来てしまったのは仕方がない。外にイスナーンの気配を感じる。連れ戻してもらうか。

「ここにいる必要も、もうなくなった。あの男はあの方であるが………、あのクソ神でもあるのだ。決して許さない。あの方を、ダビデ様を殺した神を。」

手足が動くことを確認し、窓から飛び降りた。騒ぎの中心に向かい様子を伺ってみると確かにそこには、イスナーンがいた。だが、そのイスナーンは肉体を、倒されてしまったらしい。

「……イスナーン!何故、お前の体が無いのだ。」
「紅陽様!」
「紅陽!?なぜここに。まだ目を覚まさないと医者は…。」
「お主の言葉なぞ聞い取らんわ小僧。いや、小僧などではもう無いか、糞野郎。」

にやり、と嘲笑うように笑えば男の顔が強ばる。それで良い。お前はただ、我に恐怖しただ殺されればそれでいいのだ。
ふと、顔に火傷をおった子供が目に入る。確かあやつは…。あぁ、あの子供か。左手の肘から先が無い所から見るとイスナーンはこの子供から蘇生したとみる。だが、イスナーンは惜しいことをした。この子供は我が見そめていたのに。

「イスナーン。早く、事を終らせてしまえ。どうせ、あの女の差金だろう。」
「御意。」

それからは、本当に面白かった。絶望する民を見るのは。

あぁ、やはり我は狂っている。狂わずにはいられなかったのだ。随分と長い間蔓延っていた悲しみ。そして、憎しみ。それが我には苦しすぎたのだ。生き喘ぐようにあちらで絶えた我はまた戻ってきてしまったのだ。この忌み嫌う世界へと。

我は、いや、私は、ただダビデ様と共に生きていたかっただけだ。見ているだけだった。それで良かった。けれど、それはあの子供に壊された。
憎し憎し憎し、ソロモン。
憎し憎し憎し、クソ神。
憎し憎し憎し、生物という名の付く者達。


こんな世界、全て壊れてしまえば良いのに。


そう願ったからこそ、私は我になったのだ。とても、とても長かった。この紅陽という人間を飼い慣らし手懐けるのに何年もかかってしまった。よもや、―――するとは思わなかったが、我に取っては僥倖。この世界を破滅に導くにはいい足掛かりだった。

けれど、まさか記憶を失い異世界に飛ばされるとは思わなんだ。力を求めすぎた結果の代償。迷宮に入って宝物庫にたどり着いたと思ったら、最後の試練だなんだ知らんが飛ばされた。ボティスめ。あいつ、我が中にいるのに気づきながらも紅陽の意見を尊重した。くそ、この空白の数年間がなければこの世界はもう混沌の渦へと落ちていたのに。

今では、光のような王子が誕生してしまっている。眩しすぎるのだ。我には見えない。目が潰されてしまうくらい輝いていて見てはいけない。あの魔女をも葬りさりたい我は敵が多すぎる。

「紅陽様、行きましょう。」
「あぁ…。喜べ、シンドバッド、アリババ・サルージャ!お前達はこの国の核となる。早く同化してしまえ?我のためにな!」

そして、壊れてしまえ。この世界もろとも破壊しつくせ。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -