まだ夢の続き

からから、音をたてて


さて、本格的に魔装が完成したのは良い。カイル君も隠れさせた。後はいかに被害を少なく済ませるか、だが。俺の技は大味すぎて広範囲に渡りすぎる。今でさえ、白龍や、アリババ君さえも俺の魔法にかかりそうなのに。
でも、四の五の言ってられないか。
多分、シンは誰かをここに送ってくれているはず。それまでの辛抱だ。
大丈夫、俺なら出来る。俺なら、何だって出来るさ。

「あー、あーあーあー。」

徐々に声の高さを上げていく。人には聞こえない高さになった時それは人を惑わす声となる。
シトリー。それは、情愛と堕落のジン。人を慈しみ命を懸けて守り抜く事が出来る愛すべきジン。だが、愛は時に人を落とす。自身の理想像を重ねて間違った愛を与え、欲する。

だから、俺もそれに倣おうではないか。

シトリーの攻撃は、俺が創造したものを相手が本物だと思った瞬間実物となる。でも、それだけじゃない。シトリーの魔装をしたら、万人を愛に溺れさせるほどの姿になる。俺に見惚れたら最後だ。
惑わせろ。俺を信じ込ませろ。

嘘は、得意。
そうだろう?生き延びていくためにやったことがあるだろう?

「やだ!すっごい可愛いじゃない!……でも、だからこそ、殺したい……!」
「…っ!焔よ。地獄の断罪の業火よ。私の元に集まり、かのものを滅し給え!」

俺の周りに、焔が渦を巻く。
焔によって巻き起こされる風が俺の髪を靡く。それを楽しそうに見ている男。それでいい。惑わせ、陥れろ。

「炎の使い手、ねぇ。いいわよ。相手になってあげる。貴方を殺せないのは残念だけどねぇ!」
「何を、言っている…。」
「うん?聞いてないの?イスナーン様に…。貴方は、私達の仲間、なんでしょ?」
「っ!そんなことあるわけないだろう!」

思いもよらない言葉に焔が揺らぎ消えかける。男はそれを目ざとく見つけた。そして、鼻で笑い、やれやれとため息をついた。

「ふふ。なぁんだ貴方の炎、偽物じゃない。」

気づかれた。もう、終わりだ。これじゃあこいつを倒すことなんて無理だ。もう、だめ。

「っぐぅ!」

太股を抉るように後ろから攻撃された。振り返ると車椅子のようなものに乗った老人。その笑いは気持ち悪いほどニタニタと笑っている。
こいつだけではなかったのか。……あと何人いるんだ。勝ち目なんて、無いに等しいけれどここで俺が逃げてしまったら白龍達がどうなるか分からない。

「あ゛っぐ!」

何か風を感じたと思ったら剣で全身を切りつけられていた。至ることろから血が溢れ出す。だが、何故、とどめを刺さない。生かされている。
ふらりと倒れそうになりまた、巨大な手に握り締められる。血が溢れて溢れて止まらない。

「…シ、ン。炎兄。助け、て。」

俺はどうなってもいい。
だから、早く、ここから、白龍達を。
逃げさせてあげて。

強い、貴方達なら出来るでしょ?

ねぇ!

シンドバッド!練紅炎!


***

「待たせたな。」

霞む意識の中聞こえたのは、男の声。けれど、シンではなかった。何故、君は、俺が望んでいる君は来ないのか。その理由が、なんとなく少し歪な形で分かった、気がした。

はらはらと涙が流れ落ちる。
俺はこれから誰を求めればいいのだろう。シンや炎兄様はもう、ダメなんだろう?
だって、助けに来てくれなかったじゃないか。この俺が嘆いているというのに。

「シンも、炎兄様も、俺はどうでもいいのか。」

心の内から違うと叫ぶ声がする。
ただ、来られないだけなのだと。俺の中の良心が、そう言っていた。
そう思いたい。けれど俺の中の澱んだ心がそれを否定する。もういっそ、堕ちてしまいたい。堕ちたらどれ程楽だろうか。この世界を憎んで、それを目的に生きていく。これほど矛盾して歪なものはない。けれど、そうしなくては生きていけない者だっている。

「大丈夫か?紅陽。」
「シャルルカン……。なんで、お前なの。」
「は……?」
「なんで、シンは来てくれないの!どうして……。俺はもう、必要、なくなった?」

シャルルカンの顔は涙でよく見えないけど、歪んでいることはわかる。

「すまねぇ、紅陽。」

何、と声を出す前に首の後ろに衝撃があった。目の前がじわじわと暗くなり、何も見えなくなった。
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