瞳は底知れぬ海

たぶん、それは若気の至りというやつで


そう、主様はなんて言ったんだっけ?あの白龍様との邂逅の後に。
スッと目が開き周りの景色が見える。私の部屋はこんな広かっただろうか?横から物凄い音が聞こえてそちらを見ると白龍様と赤髪の女性が戦っている。白龍様が血だらけになりながら戦っている。私は何故寝ているんだ!我が主の弟君が戦っているのに寝ていただと!

「白龍様…白龍様ぁああ!」

白龍様に襲いかかってきた巨人を金属器でいなす。この力の重さ、鉄か?ただの針じゃ勝ち目がない。しょうがない。魔装するか。けれど、全身じゃなくていい。これぐらいなら腕だけで十分だ。

「情愛と堕落の精霊よ。汝と汝の眷属に命ず…我が魔力を糧として…我が意志に大いなる力を与えよ!出でよシトリー!!!」

針が長くなり剣とかし、私の腕も赤く染まっていく。久しぶりにシトリーの魔装をしたな。この内側から熱くなる感じがいいんだ。

「紅陽さん!?」
「白龍様、言ったでしょう?私の事は紅陽でいいと。」

魔装も久しぶりだが、こんな戦いも久しぶりでにやける。元々戦いは好きなほうだ。鉄、だからなぁ。熱すればいいのだろうか。だとしたら相性がいい。
針だった剣に炎を纏わせ巨人に斬り掛かる。すると、いとも簡単に切れた。ああ、弱い。こんな雑魚は白龍様は相手にしなくていい。残り約10体。数はあるがかなわない相手ではない。すぐに終わらしてしまおうと体制を立て直した所で後ろから何かが倒れる音が聞こえた。振り返ると倒れていたのは白龍様。何故どうして。そんな事ばかりが頭の中に駆け巡る。

「紅陽さん!後ろ!」
「っ!」

赤髪の女性が叫びなんとか巨人のパンチは避けられたが少しかすってしまった。白龍様が気になる。けれど、今はこいつらをなんとかしてしまわないと。白龍様をこうした原因だからなぁ。
剣にしていた針を元の長さに戻す。そして、針を10本取り出し浮かび上がらせる。1本毎に炎を纏わせ巨人に向かって飛ばした。これは対象が死ぬまで追いかける針。だから、この巨人達が壊れるまで針は巨人を貫く。針は小さいけれど炎を纏わせた針たちは貫けないものはない。
巨人達はもうこれでいいだろう。それよりも白龍様だ。大丈夫だろうか。
急いで近づいて止血をする。魔力が少ない。分けてやることも出来なくはないが出来ればやりたくない。あとで色々と言われるのだ。今はとりあえずここからの脱出だ。

「すみません、そこのお方。出口はどこか分かりますか?」
「あ、こっちです。」

白龍を担ぎ赤髪の女性に連れゆかれて巨人が居た広間から出る。その際にちらちらと女性に見られたのだが私になにか付いていただろうか?全く心当たりがない。目が合いそうになるとすごい勢いで逸らされるから話しかけようにも掛けられない。

少し広間から出て歩いたところに青い髪をした少年と金髪の少年がいた。一瞬敵かと思ったがどうやら女性の仲間らしい。ひとまず安心できる。とりあえず白龍様を横たわらせる所はないか。

「って!白龍どうしたんだよ!それに紅陽さん起きてるし!」
「紅陽お兄さん起きたんだね。よかったよ!白龍お兄さんは大丈夫かなぁ?」

金髪の少年が白龍様を降ろしてくれ布を引いた床に横たわらせてくれた。白龍様…大丈夫だろうか。あんなに血を流して戦っていたんだから。
白龍様が横たわっているすぐ横に座り布を取り出し血を拭っていく。目、口、鼻、至るところから血が流れ出たあとがある。多分、血管内でも内出血をしている所があるだろう。

「ん……っ!」

体を拭っていたら突然白龍様が飛び起きた。そっと手を貸して起き上がらせる。その際に手を払われそうになったがふらついている白龍様にかなわぬ程の力ではない。無理にでもささえた。

「もう、二本道の試練は抜けたところだよ。お兄さんはモルさんと紅陽お兄さんがはこんでくれたんだよ。」

青髪の少年の言葉に暗い顔をする白龍様。この顔は思い悩んでいる時の顔だ。私はそういう顔ぐらいしか見たこと無いのだけれど。白龍様の笑った顔を見てみたい。なんて今思うことではない。

「やぁやぁ!皆順調みたいだねぇ!」

突如として頭上から声が掛かった。見上げてみると宝物庫にしかいないジンがそこにいた。おかしい。ここにジンが出てくるはずが無い。
生命を創り出している。……どこかでそんな文献を読んだ気が。

「ザガン!」

金髪の少年がそう言って思い出した。そうだ。ザガンの迷宮だ。ザガンは生命の源の一つである大地と深く関わりがある。だから、生命を創り出すことなど簡単に出来てしまう。

「あの二本道をクリア出来るなんてね〜。いや〜強くって感心しちゃったよ〜。
でも、一人だけ仲間はずれがいるよね〜。超頼りなくて足ひっぱってる奴。
だ、れ、か、な。だ、れ、か、な〜〜?」

声しか聞こえないからこのザガンがどこにいるのか分からない。分かったら即刻切り刻んでやったのに。どうせこれは迷宮植物がザガンの真似をしてやっているだけだろう。本物のジンは宝物庫から出られないはずだから。

「オイ、聞こえないふりするなよ。お前だよ、顔に傷のあるお、ま、え!
君さっきから助けられてばっかだね〜?みんなもほんと迷惑してるよ〜。君に彼らの仲間の資格なんてあるのかな〜?君ってほんと、何も出来ない…弱虫だよね〜〜!!」

白龍様が俯き震えている。それは怒りでだろうか?それとも悲しみでだろうか。白龍様は小さい頃から泣いてばかり居たから、今回も泣いてしまうかもしれない。………何故、私は白龍様の過去を知っている?え?頭の中がグチャグチャになる。

「わかってますよ〜〜そんなことは〜!!!うわぁぁあ!!」

白龍様が顔を上げるとやはり泣いていた。けれど、私、いや、俺にはそれ以上の収穫があった。記憶が戻った…。白龍様の泣き顔を見た時かけていたピースが全てハマった。俺は、煌帝国の皇子の紅陽であり、練紅炎の従者である紅陽であり、向こうの世界に行った紅陽でもある。今のところは皇子の紅陽が色濃く出ている感じだ。

「なんだよぉ〜。俺だって頑張ってんだよぉー!!なのにできないんだよぉー!」
「あ……あわあわ?泣いちゃった?弱虫くんが泣いちゃった?ハハ……。」
「うっせーーバカ変態仮面!!」
「お…落ち着けよ白龍!」
「うるさい!!大体あんたはなんなんだよ!どうしてあんたみたいないいかげんな奴が強いんだ!?自分の国放っぽってシンドリアでのんびりしてるよーな奴がよーーー!!」
「ちょっと白龍さん、それは言い過ぎ…。」
「うるせーー怪力女!!」
「お、おにいさん落ち着いて。」
「お前もうるさいチビ助が!!」

何かを白龍様に言おうとしてやめた。アラジン達みたいに言われるだけだ。ただ、そっと近づいて抱きしめた。あやすようにぽんぽんと背中を叩く。

「触るな!」
「白龍様……、白龍。何故自分の弟に触れてはいけないのかな?……大丈夫だよ。君が大事にしてた紅陽だよ。君の良心だよ。ごめんね。ずっと一人だったね。あのことを知っているのが俺と白龍だけなのにいなくなって本当にごめんね。寂しかったかな。苦しかったかな。こんな火傷の痕まで出来てしまったんだね……。泣くのずっと我慢してた?なら、今存分に泣いていいよ。ここならあの国の人は俺しかいない。大丈夫。泣いても大丈夫だよ。俺の胸で良ければいくらでも貸してあげるから。ね、白龍。」
「うわぁぁあぁ!うわぁぁああ!」

ぎゅっと抱きついてくる白龍様。本当に辛い思いをさせてしまった。あの光景を目の当たりにしたからって記憶を失うべきでは無かったのに。
俺は逃げてしまったんだ。




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