沸点を超えた感情

たぶん、それは若気の至りというやつで


「先住民族か……。」

迷宮が出来たところ、そこは現代人が住むには難しい所だった。文明は発展してはいるが、やはり俺達の様な発展ではない。金という概念はあるけれどそれがあまり価値がないようなもの。

ふらふらと辺りを観察しながら歩いていたらアラジン達とはぐれてしまった。まぁ、多分出発するのは今日ではないからいいか。今はとりあえず遺跡の所行ってみよ。こういうの好きなんだよな。昔炎兄様とも一緒に行ってたぐらいだし。
巨大な石碑の前に立って見上げると荘厳だ。はぁ。こんなものよく作れたなぁ。
えーと?なんて書いてあるんだ。

「魚は、焼いた方が旨い……。……生肉は焼くと長持ち。」

は?なにこれ。大抵が生活の知恵的なことしか書かれていない。いや、まぁ確かに昔の人が書いたんだからしょうがないけどさ。少ししょぼくれながら下の方まで読んでみるとそこにはこう書かれてあった。

「私達は移住民だ。ここに適応していかなければならない。どこに行ってもいい。どんな事をしてもいい。けれど忘れないでくれ。私達は誇り高き人間だったのだ。……ソロ、モン?……王に、感謝を。」

最後の方は滲んでいて読めなかったけど、多分こんな感じであっていると思う。ソロモン王って誰?そんな王様いたっけ?思い出せない。

『あの、読めるんですか?この文字。』
「ん?あー、このトラン語のこと。トラン語の中でも随分旧字体っぽいけどなんとなくならね。」
『??何言ってるか……分からない…。』
『あ、ごめんごめん。こうすれば分かるかな?』
『うん。』

トランの民の少年に話しかけられた。その場のノリで普通の言葉で返してしまったから分からなかったらしい。それにしても、トラン語勉強してて良かった。全て独学だからちゃんと伝わってるかよく分かんないけど話は伝わってるみたいだからいいや。

『君はこの文字読めないの?』
『字が古すぎて読める人が村長ぐらいしかいないんだ。でも、村長も目が悪くなってもう読めないからなんて書いてあるのか分からなくて。』
『そっかぁ。この島には文献も無いもんね。』

この内容を少年に教える事も出来るが、期待した目で見ている子に生活の知恵ですよー。とは言えない。どうするか。……あ!そうだ。

『ねぇ。君がもう少し大人になったら煌帝国って所においで。そこで、トラン語の文献を見せてあげる。君はそれで勉強して、この石碑の文字を調べればいい。』
『いいの!?』
『うん。そのために君の名前を教えてくれる?』
『僕の名前はね、カイルだよ!』
『カイル君か!俺の名前はね紅陽っていうんだ。』

その後和気あいあいとカイル君と話してから村を案内してもらい、日が暮れた頃にアラジン達と合流できた。アリババ君は少し慌てたようだったけれどなんでだ?

「紅陽さん!お金持ってるんですか?案内させてるなんて!」
「お金?なんで?俺とカイル君は友達だから案内してもらったんだよ。」
「とも、友達!?」
「うん。」

アリババ君の驚き様に笑ってしまう。なんでそんなに驚くのか分かんないけど。にしても、明朝に出発かぁ。朝早いのやだな。寝てたい。でも、この子達護るって宣言しちゃったし朝起きれなくて仲間はずれになったらやばい。がんばりますか。


***

翌日

「え、こんな小舟で行くの?壊れない?大丈夫?」
「壊れませんよ。紅陽さんこの位の船に乗ったことないんですか?」
「ない。」

アリババ君にすっごく呆れられた顔をされたんだが。乗ったことなくたっていいじゃないか!一緒に乗るはずだったけどやめた。白龍様と乗ろ。

「白龍様ー。そっち乗らせて。アリババ君と一緒はやだ。」
「え、いいですけど。」

ありがと。と言いながら白龍様がすでに乗っていた小舟に乗り込んだ所で出発した。魔装できたらこんな距離一発なんだけどな。しょうがないか。

『あの…トラン語わかりますか?』
『すこしなら。』

何か聞こえたなと思ってそちらを見ると白龍様と小舟の舵を取っている少女が話していた。少女は俺がトラン語分からないと思っているのかそのまま話しだす。丸聞こえですけどね。
目を背けながらも耳は少女の声に集中する。

『やはり…昨日見た中であなたが一番かしこく五人の長に見えました。お願いしたいことがあります…』

俺、一番年上なのに賢く見られなかったんだ。年にあってないってちょっとやばいな。子供っぽいって事だろ?直さなきゃな。あっちの世界では普通に年齢に見合った見方をされてたけど、こっちではまず姿が幼いから。

『そうではないが…願いとはなんだ?』
『私も一緒に迷宮に連れて行ってください!!父と母を助けたいんです……!』

『そんな細腕で何が出来るの?』
『え?』
『そんな細い体で何が出来るの?盾にでもなるつもり?無駄無駄。余裕で切り裂かれるのが落ち。力もない。盾にもなれない。足でまといの骨頂だね。そんな事も分からないガキを連れていくわけにはいきません。』
『あなただって…!』
『君に何がわかるの?俺の何が?君はさぁ、野獣と戦ったことある?素手で。大の大人が剣を持っててこっちは何も持ってないまま戦ったことある?ないよなぁ?だってこの小さな島は平和だもんなぁ。大人が全部やってくれるからな。
……父と母が迷宮に囚われたからって自ら死ににいくんじゃねぇ。』
「紅陽さん、その位で。」
「ん、あ。わり。」

熱くなってしまった。それに嫌な記憶も思い出してしまった。俺がお母様に拾われる前の事。奴隷だったから色んなところに連れていかれて、髪がただ赤いってだけでファナリスと間違われて、戦わされた。面白がってたあの男にどんなに謝罪をしても受け入れてくれず、戦うしかなかった。昨日までは同じ寝床で寝てた狼の母親と、同じ奴隷仲間で俺を自分の子供のように接してくれた男と。負ければ死が待っている。勝つしかない。勝たなければ殺される。だから、殺した。大勢殺した。目を背けたくなる程殺したのにあの男は満足しなかった。まだ、強さを求めた。レームに行って剣闘士としても戦った。武器は持たせてくれなかった。ここでも、また殺すしかなかった。その感覚が今でも身体中にこびり付いている。ふとした瞬間に目の前の人物を殺さないといけない衝動に駆られる。

こんな自分が酷く恐ろしい。
お母様に拾われてからはあまり戦いには出なかったけれどここにきてこんなこと思い出すなんて。自分が自分でなくなる。それが一番怖いんだ。
ここにはシンがいない。炎兄様も明兄様もいない。ただ、か弱い子供たちしかいない。俺を止められる人がいない。だから、枷をつけた。子供たちを護るという枷を。


あぁどうか。この攻略で誰も傷付かずにすみますように。



「紅陽さん大丈夫ですか?」
「あ、ああ…ごめんな。大丈夫。」

モルジアナに話しかけられて意識が戻ってくる。体は無意識のうちに動いていたらしい。皆と一緒に歩いていた。後ろを見ても誰も居ずあのトランの民の少女は着いてこなかったらしい。良かった。さっきはあんな言い方になってしまったけれど、ただ迷宮に行かせたくないだけなんだ。怪我なんてして欲しくないしましてや死んで欲しくない。

「紅陽お兄さん、凄く青い顔してる……ってわぁ!!」
「アラジン!」

どこからか蔦が伸びてきてアラジンを引っ張っていく。俺にも違う蔦が絡まり引っ張られる。すごい勢いで引っ張られるから苦しい。

「うっ、ぐぅ。」

首に絡まった蔦が締めてくる。意識が落ちる。あ、やば。もう、だ、め……。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -