いっそバカにして

たぶん、それは若気の至りというやつで


「君たちに、『迷宮攻略』に行ってもらう!」
「!!!迷宮攻略!??」

俺がシンの部屋に入ろうとした時そんな声が聞こえた。迷宮攻略、それを誰に頼もうとしているのだろうか。気配を消してそっと扉から中を覗いてみればそこにはアラジン達がいた。
まさかシンはこの年端もいかないような子達に攻略させようというのか。

「どういう事ですか!シン!」
「紅陽…!?」

扉から出て足音を立てながらシンの前まで行き机を叩く。地味に痛いが今はそんな事どうでもいい。じっとシンの目を見ながらまくし立てる。

「この子達はまだ幼いんですよ!それなのに、迷宮攻略なんて死に行かせるようなもの。例え、アモンがあったとしても使いこなせてないなら無力も当然でしょう!モルジアナだって眷属になったわけでもない。この子達になにあったらどうするんですか!……俺はこんな小さな子供たちが傷つく姿を見たくはない。」
「いや、でもなぁ。俺が迷宮攻略したのも子供の時だぞ?」
「あんたは規格外なんだよ!……そこまで言うのなら!俺も付いています。嫌とは言わせませんよ。俺を連れていかなければどんな方法を使ってでも攻略には行かせませんから。」

シンは深いため息をはいた後静かに頷いた。

「分かった。」

俺はどうにかなったと思い気を抜いたのが悪かった。前が暗くにじむ。あぁ、目眩かなんて他人事のように思っているが平衡感覚なんて保てなくて後ろに倒れそうになる。ぽすっと音を立てて受け止めてくれたのは白龍様だった。

「あ、ごめんね。白龍様。」
「いえ、大丈夫ですよ。紅陽さん。
……シンドバッド王。お願いがあります。俺もその攻略どうか同行させてください。」

はっ?何を言っているんだこの子は。白龍様だって護りたい子の中に入っているというのに。そうこう思っている内に二人の間で話がまとめられ結局5人で行くことになってしまった。
くそ。なんで俺はこんなにも無力なんだ。危険から遠ざけてやる事もできないなんて。でも、過ぎたことはしょうがない。俺が必ずこの子達を護らなければ。


***


船に乗った俺達はピスティの笛で事なきを得ている。これ俺必要なかったかなぁ。と思ったのは言うまでもない。南海生物は襲ってこないしましてやイルカと遊ぶ余裕まである。
いーなー。あっちの世界ではイルカに乗るなんて暴挙できなかったし。俺もやりたいけれど泳げるか分かんないし。こっちで海に入った記憶なんてない。あっちの世界では泳げていたけれどその要領で泳げるかどうかも分からないから怖い。

「あれ?紅陽は泳がないの?」
「あー。うん。こうやって海風感じてるだけでいいよ。ありがとう。」
「そっか。あー!モルジアナー。」

モルジアナにも似たような質問をするピスティ。元気だなぁ。姿が子供っぽいから扱いが幼い子相手にしているみたいになる。

それにしても、白龍様はどこに行ったのか…。さっきから姿が見えないから少し寂しい。なんだろう。俺、こんなに乙女思考だったか?1人じゃ寂しいとかどんなだ。
遠い目をしながら空を見上げる。空が遠いなぁ。魔装をしたら鳥になったように空を飛んだり駆けたり出来るから空が近かった。けれど、今はよく分からない金属器があるだけで俺が慣れ親しんだ刀はない。俺は無力だ。あれほど護ると豪語していたけれど守る術など何一つ無いくせに。ただ自分の見ていないところで誰かが死ぬのが嫌なだけ。俺のエゴだ。

「紅陽さんも、俺の料理どうですか?」
「ん……?わぁ、これ白龍様が作ったの?凄いね。」

白龍様に話しかけられそちらを見るとそこには豪勢な食事があった。
まじか。これ白龍様が作ったの?俺も食事作れないこともないけどこんなの作れない。食事が輝いて見えるなんて。
アリババ君も一国の王子だったけど食事作れただろうか?食べるだけの辺り作れないんだろうな。俺も食べよ。

パクリと1口、口に含んだ。


懐かしい。これは俺が慣れ親しんだ味。シンドリアにいる間には食べれないと思っていた味。
涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。アラジン達がぎょっとした目で俺を見ているから止めなきゃいけない。けど止まんない。

「紅陽さん!?」
「紅陽お兄さんどうかしたの?」
「え?ええ?紅陽さん、俺の料理不味かったですか?」
「大丈夫ですか?」
「ごめ……。大丈夫だから。少し懐かしくなっちゃって。」

一通り泣き終えると涙は止んだ。けれど、泣いた後の独特の倦怠感はなかなか消えてくれない。
白龍様の料理をもう一回食べる。うん。美味しい。

「美味しいよ白龍様。この味だよ。よく出せたね。」
「昔から料理はしてましたから。」
「そうだったんだ。うん。通りで懐かしいんだね。」

泣いてしまったからかもうお腹いっぱいだ。腫れてきた目も冷やしたいし少しここから離れるか。

「目、冷やしたいからちょっと外すね。着きそうだったら言いに来て?」
「あ、はい。」

流し場に行き目を冷やす。冷えきった水が気持ちがいい。煌にいた頃もこんな感じで泣いたら冷やしてたな。それで、炎兄様に笑われたっけ。あぁ、炎兄様に会いたい。明兄様に会いたい。煌に帰りたい。
一度あってしまうとやはりもうダメだ。恋しくなってしまう。
また涙が出てきた。でも、いまは誰もいないから本気で泣いてもいいかなぁ。

「……っ。っぅぅぅ。ひっく。」
「あの…。紅陽さん。もうすぐ着きます。」
「え……。あ、ぁもうそんなに経ったんだ。ごめんね。アリババ君。変なとこ見せちゃった。」

年下に泣いている所を見られるなんて。恥ずかしい。濡れている頬を乾かす様に手で扇ぐ。あー。顔が熱い。泣いてたからっていうのもあるけど年下に泣き顔見られた恥ずかしさもある。

「……大丈夫です!俺、まだアモン使えきれてないけど絶対に紅陽さんを守りますから。」
「え?」
「昨日あの後シンドバッドさんが俺の所にきて言ってたんです。紅陽は何も出来ないけどなんでも護りたいと思う奴だから君が助けてやってくれって。」
「アハハっ!それシンの真似?似てないね。でもシンがそんな事言ってたんだ……。何も出来ないってわけでもないのになぁ。」

アリババ君に元気づけられてしまった。だけど、それで元気でた。こんなに弱々しくてどうする。大丈夫。俺にはこの金属器がある。いつ得られたのか分からないけど俺が得たのには変わりないんだから、使えないはずがない。

「よしっ!元気でた!ありがとうアリババ君。島に降りようか。」
「はい!」

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