知らないふり

たぶん、それは若気の至りというやつで


なんか色々とやっているけれど要はあれか?シンドバッドが煌帝国で色々やらかしてもしかしたらあの姫様に手を出したかもしれないと。
しっかし、あの子どこかで見たことあるような気がする。何処でだ?多分煌帝国でだと思うが、あんな子居たっけ?あの歳で、確か紅玉とか言ってたな。うーん?うーん……。あっ。思い出した!あの子供か!小さい頃しか見たことなかったから分からなかった。でも、こんな所に出るような位だったか?確か、妾の子だったような気がする。
だめだ。記憶があやふや過ぎる。
白龍様に聞こうと隣を見ると居なかった。

「今度の騒動、我が国の者の不義です。『他国のあやしい魔法』と言ったが、我が国にも、これ程強力ではないにしろ、よく似た透視魔法がある。その信憑性は確かなものだ。この水魔法も正しいと見える。そうだろう?夏黄文。」
「……………ハイ。」
「同行者の緋霊、煌帝国を代表してお詫び申し上げる。ですが、今度の『留学』の重大な"目的"はまったく別にあるゆえに…どうか、滞在をお許しください。」
「ああ……許可しよう。」

なんだろう。こういう時は国王らしくてカッコイイんだよ。でも、俺に関わると途端に裏が見えやすくなるからな。考えていることが手に取るように分かってしまう。
ボケッと見ていたら白龍様は行ってしまい、シンドバッドと俺が残った。周りは気を利かせたのか誰もいない。

「紅陽、俺あれから考えたんだ。お前の気持ち。」
「うん。」
「俺はずっと、紅陽の記憶が戻ってからずっと昔の紅陽のままだと思っていた。お前が違う人物になっているなんて思いもよらなかったんだ。でも、それは俺が勝手に思い込んでいた事で紅陽にはとても辛い思いをさせた。……すまない。」
「いいえ。シンドバッドさんは悪くありません。俺の方こそ、ごめんなさい。ちゃんと言っておくべきでした。貴方がとても優しい人だからそれにつけ込んで、そんな自分に耐えられなかったんです。」
「紅陽……。」

シンドバッドに抱きしめられ、熱が体中に駆け回る。腕を背中に回そうとするが少し躊躇う。俺は本当にここでシンドバッドを抱きしめていいのだろうか。

「紅陽………お願いだ。そんな言葉使いじゃなくもっと砕けた話し方にしてくれないか?」
「………あはは!あーもうバカみたい。そんな顔しないでよ。もう俺が負け。………仲直りしようかシン。」

捨てられた子犬みたいな顔をして見てくるからもうなんか抱えてたものがどうでもよくなった。だって、一国の王が俺に対してだけこんなになる。気分が悪いわけがない。まぁシンはまだ俺に昔の紅陽を見ているんだろうけど。それも月日が経てば気にならなくなるはずだ。

それになんていうのか、親心っぽいものがある気がする。俺はあっちにいた記憶も合わせるともう40超もしかしたら50?くらいでシンよりも年上なんだ。年下にここまで言わせてしまう俺って本当大人気ないなぁ。
躊躇っていた腕をシンに回しぎゅっと抱きしめる。

「シン。ごめんね。……ありがとう。」
「紅陽……!」

シンの胸元に顔を埋めるとシンの匂いがした。安心する。戻ってこれた。そんな思いが渦巻く。くすくすと笑っているとシンに不思議な顔をされた。首を振ってなんでもないという。
そのとき、なんか変なものが見えた。
なにあれ。すごい剣呑な目でこっちを見てくるジャーファルがいるんだけど。

「……シン。」
「なんだ?」
「あ、いや……。なんでもない。」

子供みたいに首をかしげるから言うのを渋ってしまった。くそ、なんて可愛いんだ。いや、うん。だって子犬みたいな目でこっちを見て首を傾げてるんだぞ?可愛くないわけがないだろう。

ただやっぱり少し違和感を感じる。俺はこれ程までにシン、シンドバッドという男に傾倒していただろうか。脳裏に微かに残る炎兄様との記憶。それはシンとの争う光景。

あぁ、頭が痛い。もう何も考えたくないなぁ。最後にぎゅっとシンを抱きしめて離れた。


「俺、もう行くね。仲直り出来てよかった。」

シンは俺に何か言いたそうな顔をしていたけれど口を開く前に振り返って城に向かって歩く。
もう、今日は寝てしまおう。何も考えたくない時は寝てしまうに限る。
昔からそうしてきた、から。

起きたらもう元通りの俺になっている。
大丈夫だ。俺は生きている。死ぬ程辛い目にあってもまだ生きている。
例え、誰にも信じられず誰も信じられなくなっても生きてさえいれば俺の目的は達成できる。それまではまだ、消えていよう。

「………あれ?俺今何考えてたっけ?」



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