いかに久しき

たぶん、それは若気の至りというやつで


いつも通りの生活。朝起きて部屋から逃げて森の中に逃げ込んでモルジアナ達の修行の音を聞きながら森を眺める。そして、時には昼寝をし時には体を動かす。そうしてシンドバッドから逃げてきた。

今日もまたそうなんだろうと朝起きて準備をしてドアを開けようとした。けれど、開かない。どんなに押しても開かない。あれ?ここのドアって引くものだっけ?
押しても引いてもダメで横にスライドしてもダメだった。これでは外に出れないではないか。どうしようか。シンドバッドが部屋に来てしまう。
……シンドバッドは毎日俺が居なくなった部屋に来て少し佇む。そしてまたどこかに行ってしまうらしいのだ。俺が見たわけじゃなくアリババ君が教えてくれた。そこまで俺がシンドバッドとの事を気にかかっていると思ったのだろうか?あの日のことを知っているわけでも無いだろうに。

「どうすっかなぁ。」

ここから出ることもそうだが、シンドバッドとの関係も。このままではいけない事は分かっている。でも1歩が踏み出せない。シンドバッドは歩み寄ってくれている。俺からも歩み寄らなければこの関係は崩れない。でもその1歩が怖いんだ。

ふぅ、とため息をつきながら窓の外を見る。あれ、そういえば窓は開くのか。飛び降りれなくもない。よし、一か八かだ。

「……っうぇい!」

飛び出した瞬間に部屋のドアが開いた気がしたけど振りかえれるわけも無くただ落ちていく。案外容易く地面に降りられた。
足が無事かどうかを確かめてから歩きだそうとした時上から声がかかった。

「紅陽!」
「シンドバッドさん……。」

上を見上げると逆光になったシンドバッド。顔は分からない。けれど、シンドバッドと分かる。姿が、声がシンドバッドだといっている。だってずっと見てきた。あちらの世界に行っていた時も"原作"で読んでいたから。ずっとシンドバッドを、追って、いた。
………原作?なんだ原作って。元の話があるというのか。この世界には。この世界はもうシナリオがあってそれには逆らえないとでもいうのか。そんなの有り得ない。
ただの俺の戯言だ。

「なにか?」
「その、あっと……。」
「用がないならもういいですか?」

上を見上げていた顔を元に戻して踵を返す。
ごめん。ごめんなさい。シンドバッドにこんな事言う権利なんて俺にはないのに。
ただ、今は考える時間をくれ。
もし、もしもだ。この世界のシナリオが決まっていたとして何故俺は覚えていない。何の為に俺は向こうの世界に行ったんだ。こんな血みどろな世界をなくすためだろう。

昔の俺なら世界を変える。なんて容易く言えたのに。今はもう無理だ。現実を見てしまっているし俺よりも力がある奴なんてそこら辺にいっぱいいる。俺にはただ願うしか出来ない。


この世界の人は全て愛されるべきだし愛すべきだ。それは誰かの思惑によって左右されるものではない。
だからどうか皆に幸あれ。


***

森の中を歩いていると港の方が騒がしくなった。
微かに汽笛も聞こえるから船が来たんだろうけどいつもはこんなに騒がしくならないはず。今日なにかあるのか?見に行ってみるか。
港の見える森の端まで行き周りを窺うとそこには煌帝国の船があった。

「な、んで。というか、誰が。」

遠すぎて誰がいるのか分からない。けれど、炎兄様では無いことは確かだ。炎兄様がいたらすぐにわかる。では、誰がとも思うが確認するために近づかなくてはいけない。つまりシンドバッドがいる所に近づかなくちゃいけないということだろ。気まずい。気まずすぎる。

ただもし今出ていってあの船で煌に帰れたら。シンドバッドと離れられたら。俺はこんな思い持たなくて済むのかな。


でも、ずっと逃げてなんになる。一時的には俺は安堵できるがシンドバッドはどうなる?俺が部屋から居なくなっただけであの騒ぎようだったんだぞ。国にすらいないと分かればどれほど落胆するか知れない。

「……よし。行く。」

なんてかっこよく言ってみたものの足取りは重い。行きたいような行きたくないような。
少し歩いてざわめきの中心部に近いところにきた。そこにいたのはやはりシンドバッドやジャーファル、アラジンやアリババ君だった。ただ、煌の側の人が見えない。ここからは人が壁になって………。
無理やり見ようと体をねじった事で見えた顔は俺が知っている人物とは大きく異なっていた。

「え、白龍様………?」

気づけば飛び出していた。人をかき分け騒ぎの中心へ行く。シンドバッドと誰かが言い争っているけれどそんなの今は関係ない。


「白龍様!」
「え………紅陽さん!?」

走っている勢いのまま白龍様に抱きついた。
大きくなったなぁ。昔は俺が抱き上げれるくらいだったのに。それにしても、なんでこんな所にいるんだ?

「白龍様、どうしてここに?」
「それはこちらが聞きたいですよ。俺の方はシンドバッドさんと会ってみたくて…。ですが、今は違うことで問題がありそうですが。」

そう言って白龍様はシンドバッドの方に目線を向けた。俺もそちらに向けると凄まじいことになっていた。

「責任をとるには…。姫君と結婚する他ないと思いますが!?」
「っ!?結婚だと……!?」
「そうでありましょう。姫への行為も、それが夫婦の契であったとすれば姫の名誉は傷つかぬ。七海連合の長たるあなたにならば…我が皇帝陛下も紅玉姫を差し出すでしょう。」

という事は、シンドバッドは結婚するのか?いや、でも凄く否定してる。ジャーファルとかはなんかもう結婚の話のままで進めているし。うーん。話の前後が全く分からん!

「あーーーっ!!もう我慢ならん!話せばわかると思っていた俺がバカだった!ヤムライハ!!頼む、お前の力で俺の無実を証明してくれ!」
「本当にやってないんですね?」
「やってない。」
「本当ですね?私は本当にあったことしか皆に見せることは出来ませんよ?」



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