一時の休息

たぶん、それは若気の至りというやつで


「あっれ?本当にどこいるんだ。シャルルカン。」

あの謝肉祭の後どうやら寝てしまった俺は誰かに部屋まで運ばれたらしい。それはいいとして今はシャルルカンを探さなければ。今、金属器が俺の手元にないからどうにかして戦えるようにしておかなければならない。
だからシャルルカンに修行してもらおうと思ったんだけどいない。もうそろそろ就業時間になってしまう。急がないと。

ようやく見つけ出したのは就業時間のぎりぎり前だった。でもそうか。シャルルカンはアリババ君の師匠だったのか。どうしようか。手合わせだけでもしてもらえるか?
近くにあった柱をコンコンと鳴らすと二人とも俺の存在に気づいた。

「お話中ごめんね。シャルルカン、俺と手合わせしてくれない?」
「はぁ?何言ってんだよ。シンに頼めよ。」
「それが嫌だからシャルルカンに頼んでるんだって。お願い!」

勢い付けて頭を下げる。すると呆れたようにため息を返された。

「しょーがねぇな。1回だけだぞ。」
「ありがとう。シャルルカン!」

ひとまず今もっている武器は袖に隠してる針だけ。これは確か炎兄に貰ったものだ。けれど、武器として使ってなかったはず。俺の金属器は他にあるし。そういえばどこにあるんだろう。多分国にあるんだろうけど。

「アリババ君。合図をお願いしてもいいかな。」
「分かりました!では………初め!」

掛け声とともに両者に緊張が走った。
俺は一応相手の出方を見ようと思って動いてないけど相手も同じようなことを考えたらしい。一切動かない。俺から動いてもいいけど1回だけといわれているからすぐに終わりになってしまうのは避けたい。いかにして相手の隙を見つけこの戦いを長続きさせるか。

シャルルカンの瞬き。呼吸。腕や目線の動き。脚の引き具合。血管の波打ち。

どれをとっても隙が無いに等しい。こういう場合、どちらかが動き出さない限りこの均衡は崩れない。
では、俺から試さしてもらうか。

取り敢えず体を弛緩させた。シャルルカンは俺が隙を見せたと思い飛び込んでくる。それこそが狙い。攻撃可能範囲はシャルルカンの剣の攻撃範囲の少し外。シャルルカンの剣に注意しながら比較的注意がされていないツボを探す。
肩が1番いいが、剣を持っているから気が逸れていない。だが、針で狙うのだとしたらやはり肩なのだろう。
1本袖から取り出し肩に向かって投げる。当たり前のように避けられるがそれでいい。シャルルカンは俺とまた距離を保つ。けれど、俺の武器が投擲だと分かれば瞬時に近づいてくる。あぁほらやっぱり。第一撃は上から切りかかってきた。それをまた取り出した針でいなす。そしてその間に反対の手で肩をつかみ関節を外した。

「うっわ……いってぇ!」
「はぁ……怖かった。」
「怖かったって微塵も思ってないだろ!つかどうすんだよこの肩。」
「怖かったよ充分!なんで俺にそんなに真剣になるんだよ。もう。肩は関節外しただけだから入れれば動かせる。入れようか?」
「うわぁー。なんだよそれ。やってもらうけど。」

シャルルカンが肩を差し出してきたのでぐっと入れ込む。すんなりと骨が入り動かせるようになった。

「紅陽さん。すごいですね!師匠をあんなに簡単に……。」
「簡単ではないけどある程度動体視力があれば出来るよ?俺がやったのってただ肩はずしただけだから。要はいかにして相手の隙を作らせるかなんだよね。」
「隙を、作らせる?」
「そう。相手が手練であればある程隙は出来にくい。攻撃って言うのは一番隙が出来やすいものなんだ。だから敢えて攻撃に来させる。」
「あれ?でも、なんで一回目にそのまま来させて肩を外さなかったんですか?」
「針で攻撃をしたら怪我をするだろ。だから、手でやりたかったんだ。けどそのままの状態だったらシャルルカンの注意は俺の手に向いてた。まぁ、武器を持ってなかったからあたりまえなんだけどね。一先ず手から意識をずらす為に針を投げたんだ。」

針が2本以上あって良かった。無かったらこんな作戦出来ない。それに、眷属器を使われなかったから助かった。使われたら俺が負けること確定だし。でも、この針がもし金属器なんだとしたら何か感覚を掴めると思ったのになんにもない。ただの針としてしか使えなかった。

「あ、投げた針回収しなきゃ。」

針の落ちたところらへんを探したら難なく見つかった。汚れを払ってよく見てみると針になにか書いてある。目を細めて見るとそこには金属器の印があった。
……もしかして、投げちゃったからなにも感じなかった?あー、しくじった!どうしてちゃんと見なかったんだろう。

「あ、の。紅陽さん?もう師匠行っちゃいましたけど……。」
「ん?あーうん。ありがとう。」

アリババ君はいいな。どうせ剣ひとつなんだろうし。なんでこんなに大量にある針なんだ。俺の知ってる金属器が恋しい。俺の刀……。


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