嫉妬

たぶん、それは若気の至りというやつで


あの日からまた数日たった。
あの日からの変化といえばシンが部屋に来る回数が増えた。そして、ジャーファルが連れ戻しに来ている。

「シン……。別に俺に構わなくても大丈夫だよ?もう、どこも行かないからさ。」
「嫌だ。俺は離れん!」
「シン!いい加減にしてください!」

ジャーファルがシンを引っ張るけど頑としてこの部屋から出ていこうとしない。
俺としては嬉しいんだけども、これ以上政治を怠ると迷惑がかかるしなぁ。

「シーン。俺はシンが頑張って仕事してる姿が好きだよ。」
「……。やる。」

ぼそりといって部屋から出ていく。
やっと行ったか。毎日こうだから少し疲れる。最初の一言でやってくれたらもっと一緒にいる時間が増えるとは思わないのだろうか。
なんて思っても、どうにもならないのだけれど。

「あれ?今日はいない。」

いつもならシンが出ていった後は八人将の誰かが見張っているはずなんだけど。今日は何故かいない。何か国事でもあったろうか。
いても居なくてもどちらでもいいが、話し相手がいなくなると暇が出来てしまう。
これから何をしようか。と外を眺めたらすごい歓声が上がった。

「何があったんだ……?」

窓から外を見ても城内部しか見えない。そうだここは窓が外に向いてなかった。気になるけど何かあったのならシンが来てくれるよな?じゃあ、別にいいか。

「本でも読むかなぁ。」

そういえば、この間ジャーファルに何冊か持ってきて貰ったんだった。人目を気にしないで行動出来るのなんてそんなに無いし満喫しよー。

***

夕方になってもシンは来なかった。いや、別に来ないなら来ないでいいんだけど。外がなんか騒がしいし気になるなぁなんて。
ずっと部屋に篭っているのも疲れる。けど、シンからは出るなって言われてるし。俺も甘んじて受け入れているからなんとも言えないけど、気になることをすぐに解明出来ないのが難点だよな。

「今見張りもいないし、出ても大丈夫かな。」

そっと足音をたてずに部屋から出て外に向かう。するとそこはお祭り騒ぎだった。何が起こったのだろうか。

「すいません。今日は何があったんですか?」
「兄ちゃん知らないのか!今日は南海生物が出たから謝肉祭だよ!ほら、笑った笑った!」

道端で酒を飲んでいる男性に話しかけたら顔を引っ張りあげられた。それにしても、謝肉祭、か。こんな楽しそうなものなんでシンは教えてくれないのだろう。あっちの世界でも俺は祭りが大好きだったのに。
すこしイライラしながら配られていた酒を一気に煽った。やべ、あっちにいた時の癖が出てしまった。酒弱かったから直ぐにぶっ倒れてたんだよ。いい歳したオッサンが何やってるんだって感じだったけど。
でも、この体は少々酒に強いらしい。意外と飲める。3、4杯飲んで一息ついた所でそばにいた女性に話しかけられた。

「ちょっと!女の子は皆お洒落するんだよ!ほら、こっちきなオバサンが用意してあげるから。」
「え、俺おと……ってわあ!」

引っ張られて連れていかれた先で服をひん剥かれて踊り子の様な服を着せられた。腹出しって!俺、男なのに。もう、お婿に行けない……。
……取り敢えずシンのとこ行こ。

さっきから女の子たちが騒いでるから多分そっちにいるんだろうけどどうせ、酔ってるんだろうなあ。酔ってたら俺のこと忘れてもしょうがないよ。そうだ、しょうがない、しょうが………。

「ないわけねぇだろこのエロバカシンドバッドォオオ!!!」

鈍い音を立てて俺の拳がシンの頭に深く刺さった。まさか、酔ってるプラス女の子侍らしているとは。思わず殴ってしまった。
でも、絶対謝らない。俺には自室待機を命じたくせにお前はいいご身分ですね!

「お前、まさか俺を忘れてたとは言わねぇだろうな?………俺は!ずっと待ってた。なのにお前は来なかった。」

なんでこんなにシンドバッドに対する思いが強いのか分からない。確かにいい親友だとは思う。けど、違うんだ。そうじゃない。分からない、この気持ちがなんなのか知らない。だって俺は、俺はシンドバッドを友人として愛しているのであってそういう意味で愛しているわけでは無いはずなのに。
頭の中がグチャグチャになって良くわからなくなって前が滲んだ。
なんで俺がシンドバッドの為に泣かなければいけないんだ。

「……お前に付き合うのも疲れた。俺は確かに紅陽だけど、お前の知ってる紅陽なんてもうどこにもいないんだよ。けど、嫌われないように振舞ってた。なぁ、なんで今の俺を見てくれないの?」
「………。」

シンは何も言わない。それにどうしようもなくイラつく。否定の言葉でも肯定の言葉でもいいから言って欲しかった。

「シン、お前は記憶がないままの俺の方が良かった?」
「そんな事はないっ!記憶が戻って本当に嬉しかった。」
「でも、今の俺は受け入れられないんでしょ。そりゃそうだよ。シンがおかしい訳じゃない。ただ、俺が多くを求めすぎちゃっただけだから。」

違う俺でも同じように接してくれると思っていた。でも、そこまでシンはできた人では無かった。普通の人間だった。俺がただ欲が深すぎただけだ。

「……最後に。本当の俺が最後に思っていた事はね。貴方の幸せだったんですよシンドバッドさん。誰も死なない世界を作りたかった。貴方のために。」

もう、いいや。もうシンドバッドの親友の紅陽でいるのが疲れた。今の俺はあちらの世界とこちらの世界の紅陽が混ざっているんだ。どちらの紅陽であってどちらの紅陽でもない。
他人の振りをするのは虚しい。

「紅陽……!」

シンドバッドが辛そうな顔をしているけれど泣きたいのはこっちだ。いや、もう泣いているんだけども。なんで俺はこうも堪え性がないんだろう。ずっと紅陽の真似をしていればこんな事にならなかったのに。

「俺、もう行きますね。」
「待て!紅陽、お前そのままだと危ない。」
「元の紅陽ではない俺を心配してくれてありがとうございます。でも、そこまで弱くないんで。」


去り際に見たシンドバッドの顔は暗かった。
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