無知は罪

たぶん、それは若気の至りというやつで


あれから数日、俺は最初起きた部屋から出してもらえずにいる。

「つまんない。シンも来ないしアラジン達は痩せるために相手してくれないし。」

それに、未だにこの針が分からない。うーん。確かに紅炎兄様にこの針を貰ったのは覚えているけれど、何故袖に忍ばせてるのかが不明だ。戦いにでも使うのか?分からん。

「修行、したい。けど、シンから出るなって言われてるからな。」

体術だけでもいいから体を動かしたい。奴隷だった頃は獣と戦わせられてたりしたから意外と動いていたんだよな。練家に入ってからも体術は毎日やってたし。こんな怠惰な生活送ったことない。

「俺も走り込み一緒にやろうかな。どうせ、城の中走るだけだし。」

善は急げだ。今から行こうっと。少しストレッチをしてから駆け足でアラジン達の元へ向かった。

「アラジーン。俺も一緒に走らせて!」
「紅陽お兄さん!いいよ一緒に走ろう!」

城の周りをアラジン達とともに走ると、外の自然を感じられた。風が俺達を横切っていき、木々か擦りあって音楽を奏でている。そして、動物達はそれに合わせて合唱している。
あぁ、あちらの世界ではこんなにも自然が感じられなかったからとても気持ちがいい。それに、こちらの世界であったとしても、外にはあまり出させてもらえなかったから楽しい。

「こんなにも自然が豊かなのに、何故争いが起きるんだろうね。争いは自然を消失する第一の原因なのに。」
「それは、人間だからですよ。人間には欲がある。それを満たすのは他人よりも優れていることが一番早い。と俺は思うんですけど。」
「アリババ君、だっけ?君は凄い考え方をするね。人間の欲か。そんなもの無くなってしまえばいいのに。」
「……紅陽さん?」

アリババ君が心配そうな顔で俺をのぞき込む。そこまで変な顔してたかな。気をしっかり持たねば。

「紅陽!」

名前を呼ばれて振り向けばそこにはシンが居た。口は笑っているのに目が全く笑っていない。また、怒らせたかな。でも、最近のシンはどこか昔と違うようで怖い。太陽のような人だった。でも、今は暗い闇の様な人。
だけど、俺はシンのことが大好きだから、シンの事を裏切ったりなんかしない。それに、今の俺じゃこのまま生きていくことも難しい。

「どうしたの?シン。」
「部屋にいろと言っただろう。居ないからまた消えてしまったのかと。」

そう言って俺を抱きしめる。
けど、俺は前にシンから消えたことなんてない、はず。あーでも、あちらの世界に行っていた時事を言っているのだとしたらそれは俺には分からないことだからなぁ。その時にシンは寂しかったのかな。なんて思うと凄くシンが愛しく思えてくる。

「ごめんね。シン。少し体を動かしたくなったからアラジン達と走ってたんだ。もうそろそろ戻ろうと思ってたから大丈夫だよ。」
「体を動かしたかったのなら俺が相手をしてやるからもう俺が見ていない所にいくな。勝手に消えるな……!」
「うん。そうだね。ごめん。ね、部屋戻ろう?今はシンのそんな顔見たくないなぁ。楽しいお話しようよ。」

悲しげな顔もシンの顔だったら全然いいんだけど、今は楽しげな顔が見たい。だって、久しぶりに会えたシンが悲しげって嫌じゃん。なのに、シンは俯いたままだ。

「シン、元気だしてよ。もう、勝手に離れて行かないからさ。」
「お前は俺の物だよな?そうだと言ってくれ……。」
「そうだなぁ。うん。今ここにいる間は俺はシンの物だよ。」

だってここにいる間は俺はシンがいなければ生きていけないのだからシンのものって事だろう。

「シン、俺のいない間に君は凄い冒険をしたそうじゃないか。俺に教えてくれないか?」

笑顔でそう言うとシンは頷き俺を引っ張っていく。
強引だなぁとは思うけど憎めない。それがシンのいい所だろう。でも、アラジン達には悪いことをした。未だに呆然と俺達を見ている2人に振り向いて口パクで詫びを入れる。
アラジンは分からなかったみたいだけどアリババ君は分かったらしく胸の前で手をバタバタ振っている。それに苦笑しながら俺の手を引っ張る相手の背中を見る。
おっきいなぁ。本当に。昔は俺と同じくらいか俺よりも小さかったのに。今では後ろに立ってしまったら前からは絶対に見えない。一体この背中にどれほどの責任を負っているのだろうか。悲しみを、辛さを、絶望を味わったのだろうか。どうして俺はその時シンの隣に居られなかったのだろう。確かに、この世界を良くしたくてあちらの世界に飛んだけれどシンがこれほどまで変わってしまうのならば行きたくなかった。
俺は何故、あちらに行くと決心したのだろう。あちらの世界は平和だった。こんな血みどろな世界なんて知らなくて、自分を護るために武器なんて持つ人は居なかった。幸せだった。ただただ幸せなだけだった。何も感じず、時に流れを任せていただけだったんだ。

「紅陽、お茶でもしながら話そうか。」

いつの間にか俺の部屋に着いていたらしい。部屋の中央に置いてあるソファに2人で座る。
俺を見つめるその目がいやに優しくて胸が苦しい。

ごめん。ごめんね。こんな俺を好きになってくれてありがとう。でも、君が思っているほど俺は無知では無いんだ。昔の俺は確かに君が思ってるように無知だった。けれど、あちらに行って人間の暗い部分を沢山見てきた。
君が考えていることが手に取るように分かってしまうから、そんな価値俺には無いんだと叫びたい。
俺は煌帝国の人間であるけれど本物の練家ではないから人質の価値は無に等しい。

例え利用出来る者だとして好きになってくれていたとしても構わない。だから、どうか離さないで。
懺悔でもなんでもするからどうか捨てないで。



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