世界視界

たぶん、それは若気の至りというやつで


ふっと、目が覚めた。1番初めに見えたのは天蓋ベットのレース部分だった。
ここはどこだ。俺は何をしていたんだっけ。それに、今までの夢は……。
とりあえず上半身を起こしてみる。体に異常は無いようだ。
で、ここはどこだろう。一応、体を起こしたから近くにある窓から街が見下ろせるからどこか高い場所にいるということは分かる。俺はどうしてこんな所にいるのだろう。バルバッドで暴漢に襲われてシンドバッドに助けてもらった所までは覚えてるんだがそれ以降はさっぱり思い出せない。さっきまで見ていた夢の内容は鮮明に思い出せるのに。
それにしても、あの子は今の俺にそっくりだったなぁ。まるで、自分の子供時代を見ているようだった。
ふぅ、と溜息をつきながら手を握ったり開いたりしているとドアの方からガッシャーンッ!というでかい音が聞こえた。そちらを向いてみてみると侍女さんがお湯の入ったタライを落としている。

「あ、の?大丈夫ですか?」
「紅陽様………。紅陽様が起きられましたー!!」

声をかけたらどっかに走っていかれたんだけど。どうすればいいのかな、この状態。
しばらくしてジャーファルが来た。

「紅陽。起きたんですか。」
「あ、はい。ジャーファルさん。俺はどうしてこんな所にいるんでしょう?」

俺の言葉に少し動揺をみせるジャーファル。もう、なんなんだよ。

「紅陽、戻ったんではないのですか?」
「え?」

戻ったって何が……。
その時、脳裏に夢で出てきたあの子が出てくる。あの子は紅陽と呼ばれてはいなかったか?その名は俺と同じ名ではないか。
まさか、本当に俺はこちらの世界の人間だったとでも。

「あ、覚えていないのならいいんです。
起きられて良かったです紅陽。ここはシンドリア王国の城です。
食事は入りますか?今、アラジン達が食事を取っているので一緒にはどうです?」
「あ、では貰います。」

正直、腹は空いている。腹が減っては戦はできぬって言うし、取り敢えずはご飯だご飯!

***

「紅陽お兄さん全然食べないねぇ。元気がないのかい?」
「い、いや。もうお腹いっぱいなんだ。ありがとうアラジン。」

驚いた。アラジンと金髪の少年が丸々と肥えていた。それに尋常じゃない量を食べている。
俺はあんな量食べれない。
早々にお茶だけに変えアラジン達が食べている横で椅子に座りながら空を見つめた。

綺麗だ。原作では良くわからなかったけれどとても美しい青が広がっている。………もう、こんな事ぐらいしか思い出せない。登場人物も、出来事も何もかもが記憶から失っていく。
多分、俺は原作というものすらも忘れてしまうのだろう。これから沢山の人が死ぬ。もしかしたら、俺の近くにいる人達も死んてしまうかもしれない。
こんな戦にまみれた世界なのだから。あんなにも向こうの世界は平和だったというのに。神は理不尽だ。愛しい人たちを死から護りたいのに唯一の俺の力を取るなんて。


護るために、あちらの世界に行ったのに……。


「え……。」
「どうしたんだい?紅陽お兄さん。」
「いや大丈夫だ。ところで金髪の少年は?」
「アリババくんはね、シンドバッドおじさんの所に行ったよ。」
「そうか。ありがとう。」

シンドバッドが来るのか。なんか色々あったから会うのが恥ずかしいなぁなんて。三十路の男が何言ってるんだ。
がやがやという音が徐々に近くなる。

「おーい、アラジン。アラジン!」
「あ、おかえりなさい!シンドバッドおじさん!」
「ああ、ただいま。」

やはりシンドバッドも驚いたのか。顔から表情が無くなっている。それに、笑いがこみ上げてくる。

「ふふ。おかえりなさい。シンドバッドさん。」
「紅陽!?」
「はい。紅陽です。ご迷惑をおかけしたみたいですいません。アラジンから聞きました。まさか、ずっと寝てたとは。」
「それより、お前、また覚えてないのか?」
「なんのことですか?」

あぁ、そんな悲しそうな顔をしないでくれ。
しかし、シンドバッドのこの様子からするにやはり俺は元からこちらにいた人物なのだろう。それも、煌帝国の人間だ。シンドバッドとも交流があった。
夢だと思ったのが現実だったなんてどんな話だ。でも、そうしなければ辻褄は合わない。もう、観念する。俺はこちら側の人間だ。
そう受け入れるとストンと何かが入った。

「え。」

思い出した。俺は煌帝国の皇子で、紅炎兄様と紅明兄様の弟だ。
シンドバッドとは、親友だ。

「どうした?紅陽?」
「シン、シン!思い出したんだ!あぁ、なんで忘れていたんだろう。馬鹿だなぁ。あちら側に行っていたから記憶が飛んだのかな。」

シンは俺に飛びつかんばかりに抱きしめた。あぁ、安心する。けれど、どこか違和感がある。体のどこかでシンを拒否している。
今は、体全体でシンを感じたいのに。

「シン、待っててくれてありがとう。」

違和感なんて感じない。そう思えばそうなる。昔から俺はそうしてきただろう。

また、シンと会えて嬉しい。


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