飴細工の心
たぶん、それは若気の至りというやつで
「炎兄様は、どうして周りにいっぱい蝶が飛んでいるんですか?明兄様の周りにも飛んでるけど炎兄様の方が多いなぁ。」
「は?」
「え?」
ずっと前から思っていたことを聞いたら不思議な顔をされた。何でだろう。皆も見えてるんじゃないの?
「何が見えてるんだ?よく教えてみろ。」
「え、と。金色の輝いてる蝶みたいのが炎兄様の周りに飛んでるの。木とか自然の中にも蝶はいるけど、人だとその人特有の蝶になるんです。」
炎兄様のは炎みたいと言うと炎兄様には珍しく優しく笑ってくれた。炎兄様は少し考えた後僕の目を見つめてまた質問をした。
「紅陽、自分のは分かるか?」
「僕の?僕のは分からないです。見えない。」
「そうか。ありがとう紅陽。
ところで紅陽、お前はいつまで僕なんて言っているんだ。男なら俺だろう。」
「え、あ、でも、僕……。」
「俺、だろう?自己紹介してみろ。」
「う、うー。ぼ、……俺は練家の練紅陽です。」
は、恥ずかしい。顔が赤くなっているのが分かる。その顔を炎兄様に見られたくなくて炎兄様のお腹に抱きついた。ここなら顔を見られないぞ。
「耳まで赤いぞ紅陽。」
炎兄様に笑われた。顔を隠せても耳までは隠せなかった!恥ずかしい……。
***
「俺も、外に出ていいんですか!?お母様!」
「ええ。紅炎達もそろそろ大きくなったようですし。」
「……はい。そうですね。」
やはり、お母様は俺の事を身代わり以外には見れないのだろう。愛してもらっている自覚はある。けれど、実子ではない俺を本気で愛せないのだろう。
身代わりの俺がもう要らないのだとしたら、俺は旅をしてみたい。色々な景色を見たい。
「お母様、外に出ていいのでしたら俺は旅をしたいです。外の広い世界を見てみたい。」
「それはいけません。貴方に何かあったらどうするのです。」
いいじゃないか。どうせ俺はいらない子なのだろう。ずっと溜まっていた鬱憤が吹き出しそうになる。だめだ。抑えろ。俺はこれで幸せだろう。
「貴方になにかあれば国が大変な事になるんですよ。」
もう、何も言わないでくれ。お願いだから。
「貴方は一国の皇子なんですからもっと危機感を持ってください。」
「本当は違うくせに。」
「え?」
口に出していた事にお母様の声で気づいた。言ってしまった。声に出してしまった。もう、止められない。
「俺は本当はいらない子なのでしょう!昔、お母様が俺を子供にしたのだって、炎兄様と明兄様の身代わりのため、だからですよね。分かってたんです。初めから。でも、お母様は俺を愛してくれた。それだけで、良かった。けど、知ってしまったから、もっと欲深くなってしまう。だから、最後に1つだけ欲を言ったのに。そんなに俺にいなくなられてはダメですか。それは、俺のため?それとも、炎兄様や明兄様の為?」
言い切って、少し冷静になる。お母様は何も言わないし、沈黙が辛い。この場にいたくなくて逃げた。走って走って気がついたら自分の部屋のベッドの上だった。
「やっちゃった。ははっ……。」
涙がこぼれ落ちる。一つ、また一つと流れ出てくる。
もう、だめだ。お母様に逆らってしまった。これで本当に俺は用済みだ。要らないのだ。殺されるか、それとも、どこかに売られるか。
もう、どちらでもいい。ここから逃げれるのなら、どうでもいい。
「紅陽、入りますよ。」
そう言って入って来たのは明兄様だった。俺が泣いていると分かると急いで近寄ってきて袖で涙を拭ってくれる。
「どうしました?」
突っかえながらも事情を説明すると明兄様は俺をぎゅっと抱きしめてくれた。あぁ、暖かい。ずっとこのままでいたい。
「紅陽、外に出たいのでしたら私と一緒に出てみますか?旅に出ることは出来ませんが、外へ少しの間出ることはできます。」
「本当ですか!?いきたいです!」
その話をしてから俺はお母様を徹底的に避けた。知られてはいけないから。
明兄様と出かける日もお母様とは会わなかった。
その日、俺はその後の人生を変える人物と出会った。
「やあ、俺はシンドバッド!あんたの名前はなんて言うんだ?」
「すみません。近付かないで下さい。」