お母様

たぶん、それは若気の至りというやつで


「どれもこれも使えない。役立たずばかりじゃない。」

重いため息を出しながら赤い髪の女性は頬杖をついた。ちらりと僕のご主人様を見て流れるように僕を見てそこで女性の視線は止まった。

「その子は?」
「え!この子ですか…。この子は奴隷ですので、奥様の子供になど恐れ多い。」
「その子でいい。献上しろ。」

僕は周りの槍を持った男の人に抱えられて女性の前に連れてこられる。手を伸ばされてぶたれると思ったから身構えてたら頭に手を乗せられた。そして撫でられる。僕はどうすればいいのだろう。振り向こうとしたら女性に止められた。

「あの男は見なくていいのです。今日から私があなたの母ですよ。」
「お母……さん?」
「ええ。そうです。紅陽。」
「紅陽…。」
「あなたの名前です。あなたにとても合う綺麗な名です。大切に覚えておきなさい。」
「はい!」

僕にお母さんが出来た!名前も貰った!でも、ご主人様はいいのかな。だって、僕はご主人様の奴隷だから逃げられないって言ってたのに。

「今日からあなたはこの練家の男児として過ごします。あの様な者などを気にしてはいけません。分かりましたか?紅陽。」
「えっ、ぁ、はい。」

そう、お母さんに言われたけど気になるものは気になる。だけど、お母さんの無言の笑顔が怖いから気にしないようにしなくては。

「人まずはその服を替えましょうか。仕立て屋がすぐには来られないので紅炎か紅明の服になってしまいますが…。」
「え!これ今日もらった服なので後数年は着れます、よ?」

そう言うとなんか目を見開かれた。え、なんか悪いことしたかな。思いつかない。ぶたれるかな。ヤダな、怖いな。

「今日から毎日服を替えましょうね。一先ず、紅陽の部屋に行きましょうか。紅陽の為に用意していたのよ。」
「お部屋!行きたいです!」

喜んでいるとお母さんが耳を手で覆ってきた。何だろうと首を傾けると微笑んでくる。お母さんは目配せで僕の後ろにいる人に何かを合図する。
何をしているんだろう。お母さんに耳を塞がれているからよく聞こえない。しばらくして耳から手を離された。くるっと振り返ってみても何も無い。ただ、床に赤い染みが出来ただけだ。ところでご主人様はどこに行ったのだろう?

「行きましょうか、紅陽。」
「あ、あの、ご主人様、は?」
「役目を終えて帰られました。あなたは気にする必要ないと言ったでしょう?」

今まで色んな女性を見てきたけれど、今のお母さんの笑顔ほど怖いものは見たことがない。本能が告げている。もう、ご主人様の事を気にしてはいけない。その瞬間、背筋が凍った。さっきのあの赤い染みはもしかして……。

「どうしました?」
「……何でもありません。お母"様"。」

この人には決して逆らってはいけない。暖かい場所を与えてくれる人だけどこの人は、無条件にはそんなの与えてくれる人ではない。

この人と共にいる。それには、自分を殺さなければいけない。

これから僕はあの男の奴隷ではない。
煌帝国を治める練家の男児、練紅陽として生きる。
煌帝国の奴隷として生きていかなくては。


***

「貴方に紹介したい人達がいます。紅炎、紅明入ってなさい。」

お母様にそう言われて僕の部屋に2人の男の子が入ってきた。赤い綺麗な髪をした男の子達だ。

「今日から、貴方の兄になる紅炎と紅明です。こちらの大きい方が紅炎、小さい方が紅明です。仲良くして下さい。」
「お兄様?」
「ええ。貴方の家族ですよ。」

この2人はお母様の本当の子供なのだろう。二人を見る目が僕を見る目と違ってとても優しい。自分の子供だから愛しいのだろう。
では、僕は何の為にこの練家に入れられたのだろう。2人も皇子がいる。ただの身代わりならば奴隷のままが良かった。
美味しいご飯を知った。暖かい寝床を知った。体を綺麗にすることを知った。擬似的ではあるけれども、母親の愛を知った。
与えられたものが大きすぎて、これ以上与えられてしまったら。見苦しくもいい。失いたくない。
そう、思ってしまう。

「紅陽です。よろしくお願いします。」
「そんなに構えなくていい。お前は俺達の弟なのだから。」

あぁ、やめてください。落ちてしまう、………落ちてしまうから。
涙が1粒流れた。

もう、落ちてもいいのだろうか。
甘えていいのだろうか。

そんな笑顔で僕を見ないで。


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