知らない子

たぶん、それは若気の至りというやつで


「ん。あれ、ここどこ。」

目が覚めたら知らないところにいたんだけど……何故?炎兄様達はどこにいるんだろう。しかも、武器が無いから襲われても対処出来ない。

「そもそも、俺何してたんだっけ。うーん?思い出せない。」

記憶を辿っていっていたらドコーンッ!という音が隣から聞こえた。
隣の人、大丈夫だろうか。すごい落としたけど生きているだろうか。少し、様子を見に行った方が良いよね。だって、すごい音したし……。よし、見に行こう!

部屋を出て周りに誰もいないか確認する。これは、昔からの癖だ。昔は存在を知られてはいけなかったから周りに誰もいないかよく確認した。そう言えば、前シンに何か悪いことしてるみたいって言われたなぁ。今はなんとも思わないけど昔は傷ついた。悪いことなんて一個もしてないのに。

ま、俺の存在自体が悪いんだけど。

そんな事より今は隣人さんだ。確か、右側から聞こえたよな。そっと扉に近づいて扉を開けて中に入った。

したら、3人組がこっちを見ていた。
あれ、3人もいるんだったら俺来る意味無くない?いらなかったよね。しかも、癖で無断で入っちゃった。あー。また、明兄様に怒られる。

「紅陽お兄さんじゃないか!どうしたんだい?」
「え、と。すごい音が聞こえたので来たのですが。大丈夫そうですね。すいません、お邪魔でしたでしょうか。」
「大丈夫だけど、紅陽お兄さんどうかした?」
「いえ、あの、あなた方は俺を知っているのに俺の方は知らないのでどこかでお会いしたかなぁと。」
「なにいってるんだい?この間会ったばかりだよ。」

この少年と話が合わないのだが、どうすれば良いのだろうか。ちらりと赤髪の少女に目を向けるとため息を吐かれた。何故。

「紅陽さんは、1度黙っていてください。後でシンドバッドさん達を呼んできますので。」
「あ、はい。」

シンの仲間の子、なのかな?そこまで強そうには見えないけど。でも、ここで静かにしてろって存外に言われたよね。

「では、アリババさん。本題に入ってください。
昨日、アラジンに剣を向けてまで、盗賊をやっている理由を…話してください。」
「……うるせーな…。覚悟決めてきたのに。今、お前が急かすから、また話す気なくなってきたし…。」

うわ、この金髪の男の子めんどくさい子だなぁ。つか、ウザイっていうの?構ってちゃんだねぇ。

「話してください。笑い事ではありません。あなたの『霧の団』のせいで今、この国で何が起きているか知っていますか?
内乱で交易は止まり、政府が市民を見放し、逃げ出した罪なき貧しい人たちが……国境で奴隷狩りされているんですよ!?
こんなことにあなたが加担しているなんて……。あなたは、チーシャンで私たち奴隷を、私財を投げうって解放してくれた人ではありませんか!とても感謝していたのに!!!
こんな!!他人のことを考えない人だとは思いませんでした!!」

赤髪の女の子が叫ぶように言い切った。
この子は元は奴隷だったのか。いや、まぁそれは今はどうでもいいことなんだけども。奴隷を解放した、ねぇ。奴隷って言っても死なない程度には生かしてあげてるんだから別に奴隷でも良いじゃん。人間としてのプライドがあるからいけないんだよな。奴隷にするには最初にプライドを折っとかなければいけないのに皆そうしないから奴隷制度に反発が起るんだよ。人間だって一種の動物なんだから生存本能だけで生きている人間もいてもいいと思うんだけども。昔、そう言ったらシンに怒られたなそういや。でも、そのいい例がここにいるからそう言っているだけなのだけど。

「まぁまぁモルさん……。モルさんが色々あって怒るのもわかるけどさ、せっかく三人で久しぶりに会えたんだし、そういえばいい月夜だし、みんなでもっと楽しい話をしようよ!ねぇ、アリババくん。」

それから、髪が青い少年は楽しげな旅の話をし始めた。その話はとても楽しげで時に悲しい出来事があったけれども、やはり最後は楽しくて。こんな話俺にはとても不釣り合いだと思った。
夢を見れるこの3人だからこそ話は美しく輝く。外には決して見せないけれど俺の中はとても汚いから。輝いてはいけない。

「へぇ…。そんな事があったのか!そりゃあ大冒険だったなぁ…。」
「うん!そして僕は、この国で君を探すために、『霧の団』を捕まえることになったんた。
そこに君がいるとは思わなかったけど…。でも、なんの理由もなく、君がそんなことをするとも思わないんだ。
教えてよ。君が『霧の団』にいるワケを。」
「アラジン……。前に、『第七迷宮』で話したよな…。お前の友達のウーゴくんを紹介してくれって。でも先に…。俺の友達の話を聞いてくれるか?」
「うん、いいよ!」
「そいつは…カシムっていうんだ。」


***

金髪の少年が話し出した話は先ほどの髪が青い少年の話した話と全く異なっていた。とても悲しい、悲劇だ。ただ、俺はその話の中で気になる事がある。『煌帝国』だ。自国が話の中で出てきたのだから気になるのはいいのだが、内容的にどう見ても今の煌帝国は昔と違う。ここまで大きな国では無かった、はず。ということは俺の記憶がない間という事だ。どれほどの時が経っているのか…。それだけでも知りたい。だが、今のこの状況ではムリだろうなぁ。
霧の団に宿を襲われてる今の状況では。

でも、なんとなくこの状況に既視感がある。それはなんだ。脳裏に一瞬閃いては消えるこの映像。あれは、白龍様……?

「あ、あぁ、あっあああ!」

炎の中駆け回る白雄様と白蓮様と白龍様。その背後には黒い髪の魔女。にたにたと嘲るようにこちらを笑ってくる。服に燃え移る炎。どうにかして消そうとしても消えない。まるで呪いでもかけられているかのように。辺りを探しても誰もいない。徐々に呼吸が乱れていく。

「殺されるなんて、かなわねーよ。ん?おいおい、いいねーちゃんがいるじゃねぇか。」

何かに触られるけれどこの炎の中から出してくれるのなら何でもいい。助けてくれ。
なにも抵抗せずそのままにしていたら急になにもされなくなった。そこにいたのはやはり彼だった。

「…シ、ン?」
「紅陽。お前はいつも危なすぎるぞ。」
「ねぇ、煌帝国はどうなったの……。炎兄様は…明兄様は…?あの火事はなに。応えてよシン!」
「紅陽……。お前、思い出したのか!?俺がわかるか?」
「七海の覇王シンドバッドだろ?それがどうし………っ!」
「良かった!本当に、元に戻って良かった…。」

よく分からない。何故シンが俺を安堵したようなため息と共に抱きしめるのか。そもそも、これはどのような状況なのだろうか。

「シン…。どうした?俺の記憶がない間に何があったの?」
「それは、言えない。」
「どうして!ねぇ、教えてよ!」
「紅陽が、もう、居なくなるのが嫌なんだ…。俺の知らない紅陽を見るのが耐えられない。」

知らない、俺?意味がわからない。どういう事だ。コイツは誰だ。俺の知っているシンじゃない。こんな顔で笑う奴じゃなかった。もっと、太陽みたいに笑って皆を笑顔にする。

「ねぇ、なんでそんな顔するの。」
「もう紅陽を離さないようにする為に。」
「……え?」
「愛しているよ。紅陽。」

目に手を被せられ意識が遠のいていく。どんなにそれに逆らおうとしても強制的に落とされる。

「シン……!嫌だ、やだ…シンドバッド………。」

それを最後に俺の意識は消えた。

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