宵の明星

Step.96 3

宵side

暗闇の中気配を殺し、ただただ待つ。誰にも気づかれないように。ひたすら待つ。玉章様が俺を迎えに来てくれるまで。

コツコツと歩く足音がした。この歩き方は玉章様だ。自身かあり、自らが絶対の王として疑わない歩き方。

「夕月、ちゃんとやっているかい?」
「抜かりありません。玉章様。」
「そう。じゃあ、この刀少し使うよ。また戻しに来るからそれまでここでまってな。」
「はい。」

玉章様に頭を撫でられた。ああ。嬉しい。もっと撫でて欲しい。もっと、俺を必要として…。
玉章様が部屋から出てゆきまた静寂が来る。だから、またひっそりと暗闇に溶ける。


***

玉章様が刀を戻しに来てから約1時間。初めて聞く足音が二人分聞こえる。これは、ここに向かってきている。敵だ。

「魔王、招喚……?」

後ろががら空きだ。だから、"奴良組"は弱いんだ。刀を振り下ろしながら口元が笑みを描く。これで玉章様にご褒美を貰える。頭をなでて貰える。

「っ!なっ、夕月!?」
「ちっ。避けられたか。てめぇら誰の許可でここに入ってきてんだ。」
「夕月!?どうしたの?なんでここにいるの?」

ゴチャゴチャうるさい。さっさと殺してしまおう。そう思って刀を構えたのに、ごつい男に邪魔された。

「夕月、それまででいいよ。」
「玉章様…。」
「ご褒美、あげなきゃね。欲しい?」
「欲しい、です…。」

玉章様は綺麗に笑って、俺にキスをしてくれた。呼吸を奪うような、激しいのを。嬉しい。ご褒美、貰えたぁ。もっと、もっと欲しい。

「今は、これだけ。……おや?まだ生きてたの。」

ふと、侵入者を見てみるとここの奴らと一緒に倒れている。なんだ。これは。こんな雑魚に玉章様の手下はやられているのか。使えない。もっと俺が役に立たなければ。
急に窓が割れ、鴉が入ってくる。そいつらは侵入者の二人を連れゆき逃げていった。その時目があったがあいつらと俺どこかで会ったような気がするのは何故。

「時は来た。今夜、奴良組本家に総攻撃をしかける。これに乗じて一気に天下奪りだ。」

***

「玉章様。この刀はどのような刀なのですか?」
「この刀の事を知りたいの?」
「俺のような者が知るべきものでは無いのでしたら教えて頂かなくてもいいのですけど。少し、気になってしまって。」

少し伏せ目がちに言う宵に玉章はにんまりと笑う。だが、それに宵は気づかない。

「これは"魔王の小槌"だよ。」
「魔王の小槌?」
「そう。これで倒した妖怪はこの刀の主の力になれるんだ。いい刀だろう?」
「倒した、妖怪を……。」
「大丈夫。君には使わないよ。」

そう言い切った玉章にほっとした表情をみせる。玉章はそれに内心高笑いをした。可哀想な駒だと。

「ねぇ、夕月。君には奴良鯉伴を相手にしてもらおうかな。」
「奴良鯉伴を?」
「あぁ、そうだ。奴良鯉伴をお前は殺すんだ。いい機会だろう?君の母親を殺した男を殺せるんだから。」
「……はい。」

玉章がその場から去った後宵は考える。何故、奴良鯉伴という男にこんなにも胸が引き裂かれるような思いをしなければならないのか。この男はただ、自分の母親を見殺しにしただけだというのに。
殺すだけならば容易い。けれど、理性では納得出来ない何かがあるのは確かであった。
しかし、宵はその疑問に蓋をする。ただ玉章の命令を受け入れるために。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -