宵の明星

Step.96 2

宵side

「そろそろ、起きる頃かと……。」
「ふーん。そっか。」

音が聞こえた。誰かの話し声だ。そろそろと目を開けてみるとどこか知らない場所にいるらしい。武器はどこだと手を動かそうとしたら、ガシャンッと音がなり少しも動かない。手は顔の横で黒い留め具に留められ、足も肩幅位に開かれたまま同じ留め具に留められている。

どんなに動かそうとしても外れない。それどころかこちらの腕が擦れて痛い。

「無理だよ。それは外れない。」

上から声がかかり見上げてみるとそこには若い男子がいた。けれど、普通の男子ではない。背後に従えている妖怪達がそれを物語っている。リクオ様は圧倒的カリスマ力を持っている、けれど、コイツは多分、圧倒的暴力によって従えている。だから、コイツは前にいるのだ。誰もコイツの前に出たがらないのだ。

「貴様……。何をするつもりだ。」
「勧誘、かな?」
「勧誘だと?これがそこに繋がるとは思えない。」
「だって、君には強制的に僕の仲間になってもらうから。ムチお願いね。」

出てきたのはやはり先ほど戦った奴だ。ムチが俺の周りに風を作る。その匂いがイヤに甘ったるく顔をしかめる。急に腕に力が入らなくなる。なんだ、なにが起こっている。

「ムチはね、ある種の麻薬みたいのも作れるんだ。だから、それを嗅いでもらったよ。」
「く、そがぁぁ。」

口が上手く回らない。思考も徐々に分からなくなってくる。頭が痛い。どうにかなってしまいそうだ。視界も上手く定まらない。

………あれ、おれ、なに考えてるんだっけ?

「ね?忌み子と呼ばれた可哀想な子供さん。僕達の仲間にならない?」
「な、かま……?」
「そう、僕達の。大丈夫さ!今までの人間みたいにはしないよ!君を虐めないし殺そうともしないよ!だって、同じ妖怪じゃないか。」
「ほんと、に?いたいこと、しない?」
「ホントさ!約束しよう。君が仲間になってくれたら虐めないし殺そうともしない。」

やさしそうな、ひとだなぁ。このひとのなかまになればあんしんしてくらせるのかな。かあさんといっしょにくらせるのかな。ともだちもできるかな。

「なかまに、なる…。」
「本当かい?それは良かった!」

えがおがとてもきれいなひと。そのめにすいこまれそうだ。

「……ムチ、記憶固定して。」

なぜか、まわりにかぜがおこった。あまいいいにおいがかぜのなかにじゅうまんしている。いいにおい。ずっとかいでいたいなぁ。
ねむくなってきてしまった。ねてしまおうか。それがいい。このひとたちはやさしいからきがいはくわえないから。

***

「夕月、君は僕の八十八鬼夜行に入ってくれるかい?」
「貴方がそれをお望みならば、玉章様。」

愛しい愛しい玉章様。俺の命は貴方のものだとずっと言っているのに。何をそんなに怖がられているのやら。貴方が百鬼夜行を作るまで俺は貴方の矛にも盾にもなりましょう。途中で切り捨てられてもそこまでだったという事なのですから。

「聞き分けがいいね。可愛い夕月。そんな君に頼みがある。この刀、守って欲しい。」
「承知致しました。」

にこりと笑って刀を受け取る。玉章様はこっちだよと言いながら部屋を出て違う部屋に俺を連れ込んだ。そこは電気を全く付けておらず、月明かりだけが差し込んでいる。

「ここで守って欲しいんだ。」
「はい。」
「良い子だね。ご褒美だ。」

玉章様は俺に顔を近づけてきて、キスをした。軽いキス。これがご褒美なのだろうか。じっと玉章様を見ていたら、くすくすと笑われた。

「ちゃんと守れたらもっといいご褒美をあげるよ。それまで我慢。」
「はい…。」
「ずっと、ここで守って。だれが来てもこれに触れさせちゃいけないよ。」

頷くと頭を撫でられた。それがイヤに心地よくて目を瞑る。少しすると手は離れていき、玉章様も離れていく。そして、何も言わずに部屋の外に出ていった。守れたら、もっと褒めてくれるかな。がんばろ。


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