宵の明星

Step.96 1

「最近は総会に出られてませんでしたけど如何しました?狒々様。」
「いやー。最近足腰がなぁワシも歳をとったなぁ。」

宵は今ぬら組幹部の狒々の屋敷に来ている。最近の総会に出ていない狒々をぬらりひょんが心配し宵に様子を見に行くよう頼んだのだ。宵としても、良くしてもらった相手の事を心配していたので是非にとその役を買って出た。

「本家まで来るのがお辛いのでしたら車を用意しますけど……。」
「そこまでせんでええよ。そろそろワシも引退かのぉ。」
「でしたら、猩影様が次を?」
「多分な。」
「それは楽しみです。猩影様が小さい頃よく本家にいらっしゃっていましたが、最近は滅法いらっしゃらないので。二代目になられたら総会にも出られますし、よく会えますね。もちろん狒々様もいらっしゃって欲しいですが。」
「よく言う。」

たわいも無い話をしながら2人はお茶を飲む。朗らかな時間が過ぎてゆく。しかし、その時間は長くは続かなかった。
広間から風の音が鳴り響きものが倒れる音がする。すぐさま2人は武器を持って広間に向かった。

「なん、だ。これ。」
「おい!しっかりせぇ!くそ。息だえとる。」

そこには無残にも引き裂かれた狒々組の男達がいた。宵は自らの背後に何かが来たと感じそこから飛び退くと宵がいた場所に風が巻く。

「狒々様避けてくださいっ!」
「何?うっぐっ!」

宵が狒々にむかって叫んだが遅かった。狒々は風をもろに受けてしまいその場にうずくまった。宵はすぐさま駆けつけ様子を見る。

「ぐ、体が上手く動かん。何故じゃ…。」
「それは、オレがムチだからさ。」
「ムチ……。貴様、毒風の使い手か!」

ムチはさらに狒々目掛けて風で攻撃する。宵は狒々を抱き上げながらそれを避けるが、小さい部屋の中で逃げ切るのは至難の技だ。

「奴良組は逃げるだけかぁ?弱ぇ弱ぇ!」

ムチは2人に対し嘲り笑うが宵の方は冷静だった。1度広間から出て手軽なところに狒々を隠し手当をする。その際に宵は狒々に白銀を突き刺した。

「な、にを!」
「大丈夫です。大人しくしていてください。俺の力を少し分けるので多分それで毒が中和されます。狒々様は体が動くようになったら逃げてください。そして、本家に伝えてください。敵は四国だと。」
「夕月?」
「俺が1人で食い止めます。奴良組を馬鹿にした奴を生きて返すわけには行きません。それに、貴方には猩影様がいるでしょう?悲しませないであげてください。復讐の虜になってしまうから。」

宵はそれだけ言うと白銀を狒々から抜き取り鞘に戻した。狒々にお辞儀をしてから広間に戻る。狒々にはその後ろ姿が鯉伴と重なって見えた。

「違うと、思っていたんじゃけどなぁ。まさか、のぉ。」

狒々の言葉は風にさらわれ誰にも届かず消えてゆく。


***

宵は広間に戻ると何故かそこに留まっていたムチを睨む。それにムチは笑みをこぼす。

「オレのボスにさ、君を連れて帰れって言われてるんだよね。」
「はぁ?」
「君は、忌み子なんだろう。俺達の仲間にピッタリだとさ。」
「お前達の仲間に?なるわけねーだろ。貴様は奴良組を侮辱した。罪は重い。
"我、夕月の名において命ずる
妖刀黒金、我に力を与えよ"」

宵は刀を抜刀し、ムチに斬り掛かる。だが、風を纏うムチに宵の刃は届かない。逆に、宵だけが毒をくらい体が痺れてきている。

「やっぱり、奴良組は弱い。なんで君みたいのが欲しいんだろうね?ボスは。」
「カスがっ!テメェらの仲間になん、か……なる、わ、け…………ね、ぇ。」

そう言い残し宵は倒れた。ムチは宵を軽々と持ち上げるとその場から立ち去った。狒々の事など頭から抜け落ちている。
狒々はその様子を影から見て、ムチが去ったと分かると一目散に本家を目指した。




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