宵はリクオの元から急いで離れた。それは何かを断ち切るように、振り切っているようにも見える。牛鬼の屋敷を飛び出し森を翔ける。息が荒くなっても走り続け宵が止まる頃には麓まではあと数歩の所だった。
「はぁはぁはぁ。………っ。はぁ…。ぐっ。落ち着け。」
顔の右側を手で抑えながら呻く。ズキズキとその存在を示すかのように痛み出す痣を感じ宵は早々にリクオの元を離れたのだ。
「糞が。これさえなければ……。」
それは宵が小さい頃からずっと思っていたこと。まだ山吹乙女が生きていた頃。小さかった宵は人間の子供と遊んでいた。最初は仲が良かったのだがこの痣を見られた途端態度を子供たちが変えた。それは子供たちが、宵と自分たちの間にある格差を見つけたから。子から親へ伝染していき村全体が宵に対し偏見の目を向けた。
「戻らなければ……。」
1歩前に足を踏み出した時、急なめまいに襲われる。立っていられなくなり宵はその場にしゃがみこんだ。落ち着いた頃また歩きだそうとしてもめまいに襲われそこから動けない。しょうがないと宵は横たわった。
「1晩ここで過ごすしかないか。」
宵は目を閉じ眠りについた。
***
「ん。あれ?青田坊?なんで?」
宵が次に起きた時、そこは青田坊の背中であった。あたりを見回すと他の暴走族の組員らが遠目でこちらを見ている。イマイチ状況が掴めていない宵は青田坊に聞こえるように大声を出した。
「青田坊!!何してるんだ!」
「おう!夕月起きたのか!今は帰りだぜ!」
「はぁ!?マジか…。リクオ様の護衛は!?」
「雪女がやってくれてる!」
「うわぁ……心配だ。」
ブツブツとつぶやき、項垂れたように青田坊の背中に張り付く。そこに宵の懐に入っていた携帯が振動を伝える。力なく携帯を見るとそこには二代目という文字。それを見た瞬間宵は更に崩れ落ちた。
「なんなんだもう。リクオ様は勝手にするし、鯉伴様も色々と言ってくるし。」
宵の吐き出す息は重い。しかし、それに気づく者はいなかった。