宵の明星

Step.96 3

気を失った宵が次に目を覚ましたときそこには"宵"は居なかった
そこに居るのは宵の皮を被った誰か

「また来てしまったのぉ妾の力もまだまだじゃ
けれど、良いとこに来た
何やら面白いことをやっておる」

ニヤリと笑うその顔は恍惚としている
気配を消しなから、牛鬼とリクオの戦いを見ながら呟く

「けれど、ここで殺されてしまってはぬらりひょんに"お返し"が出来なくなる
それはいけない
たっぷりと時間をかけて我が御子の為にもお返ししなければ」

じっとリクオを見る目は何処かほの暗い
しかし、牛鬼との戦いが終盤に差し掛かると誰かは静かに目を閉じた

「だが、今宵はもうよいか
歯向かってくる鼠は強い方が面白い
返すぞこの体」

柱に体を預け力を抜く
すると、ずるずると座ると同時に目を開けた
宵は自分の手をじっと見つめるとため息を吐く

「また、か……くそっ」

最近頻繁に身体を取られる宵
今までは体は取られども意識は残っていた
だが、最近では意識が無くなり全てが乗っ取られるようになっている

どんっという音が宵の意識を引き戻す

「リクオ様ぁあ!?」
「な、なんだー!この状況は!
そこにいるのは……牛鬼だな!?貴様…」

三羽鴉が入ってくるがそれを手で止めるリクオ

「この地にいるからこそわかるぞリクオ…内からも…外からも…いずれこの組は壊れる
早急に立て直さねば……ならない
だから私は動いたのだ
私の愛した奴良組を…つぶす奴が…許せんのだ
たとえリクオお前でもな…」

牛鬼の言葉に宵は考える
では、自分という存在は奴良組にとって何なのだろうと
自分は鯉伴に復讐したくて奴良組に入ったがそれは牛鬼にはどう見えたのだろうか

そう宵が考え込んでいるうちに牛鬼が自害しようとしている所が目の端に映った
その場に誰がいるとも考えず、宵は走り出していた

「牛鬼!」

だが、牛鬼の刀はリクオによって折られていた

「なぜ死なせてくれぬ…牛頭や馬頭にも会わす顔が無いではないか…」
「おめーの気持ちは痛ぇ程わかったぜ
オレがふぬけだとオレを殺して自分も死に認めたら認めたでそれでも死を選ぶたぁらしい心意気だぜ牛鬼
だが、死ぬこたぁねぇよこんなことで……-なぁ?」

宵はリクオの言葉に目を見開いていた
自分を殺そうとした相手にも関わらず殺さないなど任侠の世界では言語道断だ
相手がいつまた殺しに来るか分からないからだ
けれど、リクオは牛鬼を許した
宵はその事に少なからず安堵していた

「おい、夕月おめぇには聞きたいことがある
牛鬼の世話が終わったら俺のところに来い」
「分かりましたリクオ様」

リクオが去っていく後ろ姿に深くおじぎしながら宵は見送った


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