side宵
あぁ、やっと終わった。
この苦しい世界からも、僕はもう、消える。
母さんが、父さんと今後も仲良く生きていければ良いけれど、まぁ、そんな心配なんてしなくても大丈夫だろう。
沢山、したい事はあった。
沢山、見たい物があった。
沢山、行きたい所があった。
沢山、沢山、沢山………。
悔やんでももう、出来ない。沢山の事が出来なかった。それが僕の人生。
けれど、それ以上に、欲しかったのは、"愛"だった。
生まれてから、"愛"されていると感じた事などどれほどあっただろうか。
感じたのはそれ程、ない。確かに、僕は、母さんに愛されていた。けれど、それは一番ではなかった。奴良鯉伴という男が母さんの一番だった。その逆もまた然り。
あぁ、自分の居場所はどこにあるのだろう。
そう感じるのは遅くはなかった。
でも、失ってから気づくというのは良くいうもので正にその通りになった。今になって分かる。
僕は、本当は"愛"されていのだ。とてもとても強く愛されていた。母さんの奴良鯉伴に対する愛は恋情だった。僕にくれていたのは母性愛だった。ただ種類が違うだけなのに、同じものを欲していた。
何故、こんなにも"愛"されていたのに気づけなかったのか。あぁ、もう、自分が嫌になる。
悔しい、なぁ。
こんなにも、愛されていると気づいて、愛し返したいと思ったのに。それが、出来ない。悔しい。本当に、悔しい。生きたい。
生きていたい!
『ならば、生き返ればいい。』
ぞわりと声がした。
ここは僕の意識の中なのに。何故。しかもこの声は、あの暗闇に居た時と同じ声。恐怖が襲う。
急に五芒星が見え、それに体を捕らわれる。縛り付けられたような苦しさに悲鳴を上げた。だが、それは声にはならない。
そこで僕は"飛び起きた"。