宵の明星

Step.96 2

晴明が発した言葉に鯉伴は驚かざるを得なかった。山ン本五郎左衛門、それは鯉伴自らが倒したはずだ。今になってその名が出てくるとは思わなかったのだ。
その驚いている一瞬が隙を生んだ。リクオが晴明に向かって飛びかかる。手を伸ばしても既に遅く、祢々切丸は鏖地蔵の背中に深々と刺さり、畏を消していった。

「リクオ!」
「…だ、めです…。リクオ様!何故、死にゆくのですか。……敵う相手では、ない。」

宵はゆっくりと顔を上げた。リクオに向かって叫ぶがその声はリクオには届かない。そして、リクオの祢々切丸が晴明によっていとも簡単に壊された。

「ぁ、あ、………鯉伴!僕の刀を、刀をくれ…。」

宵はリクオを見つめながら鯉伴に手を出す。鯉伴はその言葉通りに持っていた黒金と白銀を宵に渡した。そっと山吹乙女を鯉伴に預けるとリクオの元へ飛ぶ。それはリクオが晴明に斬られる寸前だった。

ガキンッと鈍い音を立て、晴明の刀と宵の黒金がぶつかる。拮抗した一瞬に宵はリクオを鯉伴の元へと蹴り落とす。そのため、黒金は晴明にはねとばされ、リクオの足元へと刺さった。

晴明は片眉を上げ宵の顔をじっくりと舐めあげるように見る。そして、にやりと笑った。

「お前は、あの体の"本当の"子供か。いい瞳だな。」

晴明は刀を持っている手とは反対の手で宵の長い髪を掴みあげ自らの顔の近くに持ってきた。痛みに小さく呻き声を上げながらも宵は気丈に晴明を睨んだ。

「あぁ、やはり、まだ痕は残っているがいずれ消えてしまうな。折角、同じ腹から産まれた者同士仲良くしようじゃないか。」

晴明が何か呟くと宵の両目に激痛が走った。焼けるような痛み。しかし、何故か瞼を閉じることが出来ない。

「あ゛あ゛ぁぁあぁあ゛ああああ゛ぁああ!!」

目を極限まで開き、苦しむ宵。目からは血の涙が出ていた。そして両目には金色に輝く五芒星か刻まれている。
晴明は満足したのか宵の髪から手を離し、抱えあげた。宵は咄嗟に白銀を掴み斬りかかろうとするが刃が当たらない。

「……その刀。お主の元におったか…。くくく、まぁいい。」

クスクスと笑ながら晴明は手を動かそうとすると、片腕が腐ったようにぼろりと落ちた。

「まだこの世に体がなれていないか。しょうがない。一旦地獄へ戻るとしよう。」

晴明が手を振ると地面から地獄の門が出てきた。宵は何が起こったのか分からず、なすがままになっている。晴明が地獄に入ろうとした時宵はえも言われぬ恐怖に陥り、晴明を蹴り出来た一瞬の隙に体を離した。
だが、急な浮遊感にバランスを崩し、落ちていく。晴明はちらりと宵を見たが、地獄へと入っていった。

「待て!」
「リクオ早まるな!!」

リクオが晴明の後に続いて行こうとするのをぬらりひょんが止める。
晴明は最後ににやりと笑うと地獄の門を閉じた。



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